2004年01月22日

いい試合とは、なんなのか

Date: 2004-01-16 (Fri)

今日のオススメ曲「Terri ClarkのI Just Wanna Be Mad」

 前回の編集後記の最後の辺りで「いい試合の意義を……」と触れたので、今日はその定義について考えたい。
 たとえば大谷晋二郎の試合を振り返ってみると、彼は名勝負製造器と呼ばれるだけあり印象に残る試合を続出させている。果たして何がそうさせたのか!? それは彼自身の“プロレス哲学”にあるわけだが、彼の場合、相手の技を受けること。それがポイントになっている。TAKAみちのくにも共通していえることは、両雄ともに“受けの美学”が自身の中で成立しているからである。
 自分の技のみをブッ放して試合をしては、一方的で何も面白くない。やはり自分も攻めるが、スキが出た瞬間に相手に攻め込ませる。この“攻防”の度合い、落差が激しく、そしてお互いに体力の限界ギリギリの部分で踏ん張って決着がつくからこそ、試合内に流れがあり、リズムがあり、浮き沈みがあり、起承転結のドラマが生まれる。一方的に攻めた場合、相手のいい部分を引き出していないわけで、それは「引き出すだけの技量がなかった」と捉えてもいいだろう。

 1月5日にデビューを果たした若干15歳のプロレスラー・中嶋勝彦(WJ)。彼はこの日、デビュー戦にもかかわらず、ものすごい注目を集め、後楽園ホールの大観衆を湧かせた。それは中嶋のポテンシャルの高さもあるが、彼を光らせた対戦相手の石井智宏のプロレスセンスにある。
 ここでもやはり、受けの美学があった。空手経験のある中嶋の上段回し蹴りを幾度となく受け続け、石井は中嶋の持ち味を観衆に“お披露目させてあげた”。石井の実力を持ってすれば、秒殺も可能であったはず。先輩としてプロレスの厳しさを伝えるために、中嶋の攻撃がまったく効かない素振りも見せられたはずだった。ところが、石井は中嶋をひとりのレスラーとして迎え撃ち、プロレスの楽しさ、リズム、試合運び、受けの美学を身をもって伝授した。結果、素晴らしい試合となった。

 しかし最近、「いい試合ができるよう心がけて試合に臨む」レスラーが多い。彼らの思ういい試合とは、客を沸かせる試合であって、カウントの2.9でマットから肩をあげる攻防を意図的にすること……。と、断定するのも難しいが……。選手はそんなことは語らない。だが、それが見てわかる。観客に「いい試合をしようとしている」と見破られては、まだまだ三流のレスターである。だが近年、そんな選手がインディーだけでなく、新日本プロレスにも存在するから、中邑真輔のような選手が注目されるのかもしれない。
 なぜなら、意図的にいい試合をしようとするレスラーの試合からは、殺伐とした雰囲気が漂っていないからだ。小川直也が言う「茶番な試合」、ライガーが言う「ぬるま湯」である。どちらともに、手の内のわかる選手同士が安心と信頼の基に技を繰り出し、それなりの展開を作って消化試合にしてしまっていることを示唆している。

 たとえば1.4の新日本プロレスの興行で挙げるなら、佐々木健介対永田裕志の試合は「いい試合」だった。中邑対高山善廣の試合もいい。意図的にいい試合に運び込むのではなく、結果的に “いい試合になった”のが本来の「いい試合」だと思う。これら2試合には殺伐とした怖さと緊張感があり、プロの試合だったと思う。
 こう考えると、大谷の試合は果たしていい試合なのだろうか。彼の場合、健介対永田戦とは別の尺度で測ると、試合内に喜怒哀楽、起承転結が存在し、名勝負の図式に当てはまりやすい。
 また大谷は、試合中に対戦相手や観衆と会話する新しく珍しいタイプのレスラーでもある。そういう客との駆け引きは、湧かせる要素を充分に含んでいる。つまり、大谷のプロレス哲学は模範解答の1つであると捉えられる。

 プロレス考としては、試合は「点」あってはならない。「線」で結ばれる展開を残した方が興行的にも成功する。1試合1試合を意図的ないい試合で終わらせるより、突発的な展開があり、後に繋がる試合結果が誕生すれば、数試合を通しそれらはすべてが「いい試合」と評価されるだろう。
 こういうプロレスの楽しみ方を「アングルを読む」と言うのだそうだが、シロウトにそれを読まれずに展開し、点と点を結び付けていくのが最高のプロレスラーだと思う。たとえば、あの健介・永田戦のあと新日フロントは「健介を永久追放する」と発表したが、あの名勝負を点で終わらせるにはもったいない。これが意図的に「追放」と発表されていて、実は「これからも健介を使う」というストーリー展開があるのなら、いい因縁が生まれるはずだし、点が線で繋がって「いい試合」を誕生させていくだろう。こういう流れが、「いい試合」の定義であったもらいたい。

Posted by DODGE at 2004年01月22日 18:59 in 2004.1〜4月