2004年01月16日

アジャ・コング勝訴で揺れる「活字プロレス論」

Date: 2003-08-27 (Wed)

今日のオススメ曲「OutrageのFangs」

 世間一般的にも知名度が比較的高いアジャ・コングが、所属していた興業会社を相手取った訴訟でこの度勝訴した。ことの発端は2001年2月に開催された後楽園ホールでの興行に遡る。
 当時取締役だったアジャは経営方針などをめぐり社長と対立、退任・退団を申し入れ、リングを去った。しかし後の記者会見などで「勝手に去って後始末しない」「問題児」などと発言されたという。これが引き金となり、侮辱的なコメントに関しての慰謝料と未払い報酬計約1500万円の支払いを求めた裁判がはじまった。これに対し、東京地裁は慰謝料50万円を含む710万円あまりの支払いを命じた。
 これで何が揺れているのかと言えば、会社側が出した主張「プロレス業界では、リング外のコメントは試合を盛り上げるために許される」は、真鍋美穂子裁判官によって「当時の両者の関係を考慮すると許容されるコメントではない」と退けられた部分にある。

 現来プロレスラーは活字媒体を含めたメディアを通して舌戦を繰り返し、対戦相手の心理を揺さぶるのもプロレスとしてきた。その一戦を迎えるまでに出したコメントを読んだり、聞いたりすることで選手は試合に対するモチベーションを高める。もちろん、それを読むファンも試合展開を想像し、気持ちを高めていく。これが活字プロレスである。
 ところが今回の勝訴は、活字プロレスやリング外のコメントは、場合により、プライベートなことであり認められないとした。
 ただし、今回会社側が残したコメントが過剰だったかといえば、このレベルであれば、日常茶飯事である。それが問題とされ訴訟の種となるのなら、ほとんどのプロレスラーが詐欺、恐喝、傷害、殺人未遂にあたり、侮辱罪なんてものは当たり前の世界となってしまう。

 そして1番のポイントが、いわゆるアングルの部分。プロレスが「仕組まれたもの」、ショーであるのを法的に認知したと言っていい。
 プロレス中継などを観戦していればよくあるコメント、「ブッ殺してやる」。本当に頭にきているのなら、試合などせず、今までに誰もが訴えてきたはず。また殺されるほど身の危険を感じていたのなら、警察に助けを求めたというニュースがあってもいいはずだが、そんな事態は1度もない。それはプロレス内で発生したことは、すべてプロレス内で解決してきたからである。もっとも一般的なのは、リング上で勝負をつけ因縁や遺恨を解決すること。それが金銭的な問題なのであれば、個人と会社側とで話し合いが持たれてきた。
 たとえば今回、「試合放棄は社長が演出し、指示した」、「試合が始はじまったらほかの選手がリングに上がって辞任要求を出すので『辞めてやる』と言え、と言われた」とアジャの退団には流れが作られていたことを示唆する内容答弁も出ている。これでは「プロレスはエンターテイメントです」と言ったと同然である。

 そもそも活字プロレスは、テレビ中継では全試合を追えないことから、活字媒体が試合経過を伝えるため、また試合内容を論じるために誕生した。ゆえに、試合前、試合後のコメントは試合をさらに楽しむためのエッセンスであり、それ自体を楽しむファンも多い。コメントは選手の主張であり、リングを下りた後も言語でプロレスをする。しかし今、この“プロレス言語”の是非が問われているのだ。この勝訴は、活字プロレスとプロレスのエンターテイメント性を考えさせるものとなった。波紋が広がるのは間違いない。

Posted by DODGE at 2004年01月16日 18:20 in 2003.5〜8月