シンポジウム「日本の川(湖)と魚を考える」
主催:(財)日本釣振興会長野県支部/(財)日本釣振興会
日時:2003年5月18日
会場:長野県須坂市「メセナホール」
 
●パネルディスカッション「バス釣りは、日本列島を棲みわけできるか」より
パネラー:田中康夫さん(長野県知事)
     C.W.ニコルさん(作家)
     水口憲哉さん(東京水産大学助教授)
進行:天野礼子さん(アウトドアライター)
 
注意:この記事は、パネルディスカッションの一部(バスフィッシングに関わる部分)を読みやすく編集したものです。意図的な改編などは行なっておりませんが、読みやすくするため部分的な編集を加えてあります。なお、本文は主催者による公式のものではございませんのでご了承ください。
 
天野「実は日本を代表する二つの団体が、今、ひとつの論争をしています。ひとつは、今日の主催者でもある日本釣振興会です。もうひとつは日本の内水面を司る全国内水面漁業協同組合連合会ですね。全内連(注1)といわれるところです。全内連というのは、さきほど私が自分の話の中で言いましたように、実は、ダムを作っていく建設族の人たちの、手助けを……結果的にはしてしまった団体です。その二つの団体がですね、今、盛んに論議をしているのは、ブラックバス問題です。ブラックバスは害魚であるとか、ブラックバスがメダカを食って滅ぼしちゃったとか、そういうことを言われているんですけども。私はですね、その議論は大切じゃないとは言いませんけれども、もっと大切なことが……日本の川について、日本のダムについて、
あるいは、海をもっと盛りかえさせることについて……あると思っているんですね。ですから、その全国内水面漁業組合連合会という、ダム作りに結果的に手を貸しちゃった組合は、バスがメダカを食うとか言ってないで、私は、その人たちに土下座して謝れなんて言いませんから。ね、その人たちも、日釣振の人たちは釣り具を売るためにブラックバスを放流したんじゃないか、放流した責任だ、ここで土下座して謝れなんていう、そういうですね、瑣末なことをお互いに言い合っていないで。もっと細説な話を。もっとこんなシンポジウムを、日本中で。日本釣振興会と全内連がお金を出して。もっと会場を一杯にして。田中さんやニコルさん、来てください、水口先生来て下さい、川那部さん来てください、丸山先生来てください、といって、私はやるべきだというふうに思っているんですね。で、そういうことを前提として、まず、ひとつは……今日は水口先生しかいらっしゃいませんので、水口先生なりに……じゃぁ、私たちはバス問題をどういう方向に導いたらいいのか、とか、あるいはブラックバスはこれから日本の中でどうやって生きていけばいいのかということを、水口先生なりの試案みたいなものがあればですね、少しお話いただけませんでしょうか」。

水口「基本的には害魚という言葉がずっとありますね。もうひとつは外来魚という言葉がある。で、そういう評価というものが時代によって変わってくるということ。地域によって変わってくるということを、ワカサギを例にとって話してみたいと思います。というのは、諏訪湖においてワカサギは、外来魚なんです。もともとはいなかったものですから、霞ヶ浦からもってきてくれ、と。で、それに対して本当は生粋の在来魚の、もう何万年という歴史のあるアメ……アメノウオ(注2)がワカサギを食いますから。これはしょうがない。自然の食性でね。琵琶湖のビワマスがアユを食うのと同じことです。そういうことでワカサギに対して、アメノウオがどっちかというと日陰者になってるのが、今、諏訪湖の状態です。それから、例えば十和田湖。ここはヒメマスを阿寒湖からもってきて、非常に大事な魚になってます。増やして。ところが、だんだん沿岸に宿ができたりして、富栄養化が進んで、誰かが放した……たぶん、和井内貞行(注3)が一番最初にコイも放して、いろんなものを放してるんで、まぁ、ワカサギも目的があって入れてたと思うんですけど、それがひっそりいたのが住みやすくなってきて、増えた。そうすると、ヒメマスが大事だからワカサギは駆除すべきということで、青森や秋田の新聞では「害魚を駆除する」ということでワカサギが槍玉にあげられた。それから、今度は琵琶湖。琵琶湖では、もともとはワカサギはいなかったんです。で、やっぱりこれもいつか誰かが放流したのがひっそりしていたんですけれでも、今から6〜7年前から爆発的に増えました。そして県の水産試験場の調査でも秋のヒウオ……アユの子供を27%が食べていると。そういうことがあって、たぶん今年は琵琶湖のアユは壊滅的な漁獲になると思います。12月の予備調査で非常にアユが少ないということがわかってますから。で、そのワカサギは外来魚なんですね。だけれども、お金になるんで、なんの問題にもしないで諏訪湖にももってきてるし、全国にもいってます。そういうことで、在来魚のアユが食われてるんだけど、そのことは問題にしないで、お金になるからワカサギも外来魚だけどいいよ、というのが今の琵琶湖の現状です。これは、結局はそこに関係する人たちがそういう選び方をしているだけであって、絶対的な基準なんかないんですよね。そのときに生物多様性とか、在来魚は絶対に水戸黄門のご印篭みたいなもんじゃないんです。やっぱり、そういうものについては地域の人たちが選ぶ。それで納得がいけばいいわけです。そういうことで、じゃあ、ブラックバスについてどう考えるかも同じことで、その地域地域で考えればいい。だから、本当に長野県の中で関心をもつ人たちが、諏訪湖ではどうか、千曲川ではどうか、木崎湖ではどうか、白樺湖ではどうか、野尻湖ではどうか、とやっていけば、全部同じ考えになるわけはないんです。それぞれ地域での考え方は違いますから。そういうことを各地域でやって、結果として、全国でそういうことをやれば、何年か後にそれぞれの地域での選択の結果がでてくると思います。それは、ブラックバスとつきあっていく地域、ブラックバスはどうしても駆除したい地域、湖とか川でですね。それが結果としてのゾーニングになる、そういう考え方です。ですから、それを国が決めたり、県が条例として一律にやっていくのは……。だから、全内漁連としてもですね、実は今、最新のものは来年出るんですけども、今年一斉更新なんで、いろんな調査進めてます。遊魚料収入、全国の内水面の漁協というのは遊魚料収入で成り立ってるんですけども、ブラックバスの、まぁ、スモールマウスとラージマウスのいろんな形での収入と、たぶんアユでの遊魚料収入というのがほとんど今変わらなくなって、同じくらいになってきてるんです、実際。ですけど、そんなことは、全内漁連の上のほうの人たちは関係なく、もうはじめからブラックバス憎しで……いろんな別の思惑もあるんですけど、それでやってるから。本当の内水面漁協の経営ということからも、そんなに単純じゃないんです。だから、そういうのは、やっぱりそれぞれの漁協の判断に任せて。そのいろんなものを汲み上げた形のことを全内漁連が本来やればいいんですけども。ま、はじめからもう全部、一律こうあるべきだという単純なことでやってるんで、そういうおかしなところがあるんですけど。やっぱり大事なことは、それぞれの地域で関心をもつ人たちが……関心をもつ人が少なければ、その中で声の大きな人がいうことになっちゃうんです。そうじゃなくて、みんなが……大事だと思う人たちが声を出し合えば、自ずから落ち着くとこに落ち着いていくと思うんですね。ま、そんなにね……有事法案みたいなものと比べてブラックバスの問題というのが大きい問題とは思わないから、そんなに大きい声でいうことではないんだけれども、もし、社会問題としていろいろあるんだったら、まず地域ごとにみんなの声を集めて決めていこう、ということ。それが結果としてはゾーニングになるだろう、ということですね」。

天野「日本の内水面についてですね、その、アユや、あるいはブラックバスもそうですが、ワカサギなどがどのくらい、どのように推移したという、きちんとした統計みたいなものがあって、害魚論なりが語られているのでしょうか?」。

水口「それはですね、何年か前に質問主意書で佐藤謙一郎という議員が出したんですけども(注4)。水産庁は、外来魚……ブラックバスやスモールマウスバスによって漁業の対象になってるアユやワカサギが具体的に、どれだけ影響を受けたかという数字はありませんと答えてます。はっきりと。ないんです。だから、ただ大変だ、食われる、食われると言ってるだけで。実際に、もう今から10年くらい前に水産庁や全内漁連が山梨県とか茨城県で調査したときも、ワカサギを食害しているという結果は出てこなかったんですね。ですから、具体的数字はない。そうすると、じゃあ次にブラックバスがどれだけいるかというのは、霞ヶ浦と琵琶湖において外来魚駆除費という予算が出ているので、それの関係でお金を払う以上、どれだけ駆除したのかというのを出さなきゃいけないですから。ただ、それも最近琵琶湖でのいろんな統計……滋賀民報なんかのものを見るとどうも怪しい。私自身も滋賀民報に行く前の2年前に統計事務所の資料を見せてもらってるんですけど、やはり怪しいわけです。そうなってくると、本当に具体的に議論する数値などはないんですね。だから一種のファッションみたいなもんで、これが恐いんだ、とみんなで「わぁ!」と騒いでるようなもんなんで。もう少し冷静に、具体的にどれだけ実害がある、どれだけ利益があるということを地域の人たちが話し合っていけば、自ずから落ち着くとこに落ち着くと思うんですね。ただし、そのときに被害と利益が半々くらいで……という場合には、住民投票じゃないですけど、そういう話にならざるを得ないとは思いますけど。多くの場合には、どっちかの方向にいくと思いますよ。まずは地域での数字は、ある程度具体的には出せるんですよね。あまりめちゃくちゃなこといえばその地域で関心をもって……たとえば漁業組合がこうだと言っても、釣りをする人がそうじゃないんだという話で議論していけば、だいたいの実態は見えてきますから。そういうことでやっていくしかないと思うんで。どこかが言った数字が正しいとかではなくて、やはり自分たちで納得できる数字でやっていくと。で、そのときは当然お金の問題もね、みんながどれだけのお金がこれで動いているのかということも考えて。だから、地域振興ということを考えたときに、いろいろな、たとえばバスフィッシングでの波及効果……これはアメリカなんかはゲームフィッシングということで、そこらへんのこともいろいろ含めて産業の規模ということでやるわけですけど……それと漁業でどうなのかと。実際には、今の内水面漁業は非常に厳しいんです。だから、アユならアユの値段が市場で決まる所は、もう今は四万十川と球磨川くらいしかないんですね。もう、ほとんどあってないようなもの。いわゆる生業というか、商売としては成り立ってないわけです。そういうことも考えるという問題もあるんです。片方では商売として成り立っているものもある、そういうことも含めてですね。あと、もうひとつの疑問は今の内水面漁業というのは遊魚あってのもので、遊魚なしで内水面漁業は成り立たないんですね。そうなってくると、じゃぁ遊魚というものを漁協としてどういうふうに位置付けるのかということを、もうちょっとやらなきゃいけないわけです。だから、本当は法律も……今度の水産資源保護法案に絡んでですね、漁業組合があまり機能していない所は地域の町とかそういう所の関係者で、そこの川や湖を管理していくという案は水産庁が出したんですけども、全内漁連の猛反対で潰れてしまったんですね。本当に大事なのはそういうことなんですけども。漁業組合というものがあまり機能していない所だったら、地域の人たちで、関心ある人たちがバスとかを含めてそこの水域をどう利用していくかということを決めていく。それが本筋だと思います」。
天野「どうですか、みなさん。この件について何かご意見はありますか?」

ニコル
「僕はとにかくいろんな所に行きますから、すぐつかまえられて「こうだ、こうだ」と言われるんです(笑)。でも、先生がいうデータは気をつけたほうがいいよと、それは納得。僕はまだまだバスについてわからないです。ただ、僕の友人がバスのジストマ(注5)を見つけてるんですよね。僕が心配しているのは、もし共食いをするようになったらその寄生虫が増えるんじゃないかと、その心配はすごくありますけど、先生どうですか」。
水口「そうですね、そのジストマの問題は、それを人間が食べる危険性ということですよね。もちろんブラックバス同士も補食しあってますから……」。

ニコル「つまり、単純化されて寄生虫が増えるということです」。

水口「そういったことはありますね。問題はそれを人間が食べたらということですけど、これは非常に難しい問題なんですけど、まぁ、生で食べるかどうかという問題なんですね。たとえばニジマスですけど、これは長野県が一番生産に力を入れてる所で明科の養鱒場に昔谷口さんという人がいて、一生懸命ニジマスを日本で殖やすことをやったん
です。しかし、その後オイルショックでアメリカへの輸出がだめになって、いろいろ厳しくなって放流に移っていったんですけども。私が今からもう40年くらい前に学生実習のときに明科の養鱒場に行ったら、入口のところに茶店みたいなものがあって、ニジマスを食わせるんですよね、刺身で。で、友達と二人で食って、他の人たちは「気持ち悪い、寄生虫が」なんて言ってたんですけども、私は大丈夫だよ、と生で食べたんですけども(笑)。ただ、地域の人たちはですね、そういうものは知ったうえで影響ない食べ方をしてるわけですし。ですからブラックバスもジストマの問題も増えるかもしれないけど、それを生で食べないとか、そういうことでやるしかないわけですよね。で、このときにもうひとつ複雑だと思うのは……。よく小河川が三面護岸張りされることが批判されますけど、戦後のあるときに山梨県などいくつかの県ではですね、ミヤイリガイ、ようは日本住血吸虫(注6)の中間宿主である巻貝を駆除するために徹底的に三面護岸張りをやった地域があるんですよ。で、それはやっぱり否定できないですよね。田んぼで働く人たちが大変なことになりますから。そういうものと今の工事の三面護岸張りとは意味が違うんですけど、単純に三面護岸張りが全部悪いということではなくて……そういうやむを得ない事情も、寄生虫の問題に限ってはあったんですね。寄生虫というのは、害ということでは人間に跳ね返ってきますから、そのことについてはきちっとしないといけない。ただ、それの媒介だから全部そういうのをいなくしてしまえといえば、ニジマスもそうなっちゃいますしね。それはニジマスの食べ方の問題で。たとえばイカやタラとかでもアニサキス(注7)があるんで。アニサキスはたぶん実害が一番大きいと思いますけど、でも、アニサキスの害があるから地球上からイカやタラをなくしてしまえという話にはならないです。食べ方の問題ですしね。単純に『これが悪い、全部なくせ』ということが一番恐いと思います」。

ニコル「ケースバイケースということですね」。

水口「そういうことですね。具体的にどうすればいいかを、ひとつひとつ私たちで考えていけばいいということだと思います」。

天野「バスの問題は、さっき言ったようにですね、大きな問題の……たとえば1000くらい日本の川やダムについて議論しなければならないことがあるとすると、1くらいのことだと思うんです。もし、田中さんからも何かあれば……」。
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