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田中「水口さんのおっしゃる、河川ごとに人々が考えてやっていくのは、これはとても大事なことだと思うんです。ただその場合にですね、先ほど言ったように……じゃぁ国土交通省が河川管理者だから主導権をもって、そういうみなさんと委員会を作っていきましょうといったら、今の町づくり協議会がそうであるようにですね、住民がみんな参加できると思って来ても、結局バッジをつけて村を世話する人が意見を言って。ところが、その人の言っている人の意見というのは匿名性の役人が書いた、批判のもとと同じ部類の原案だったりしていくわけですよね。ですから、そういうことでやるならば、私は前から言っているように、長野県なら町づくりに関心がある人が集まって、一緒にそういう問題をきれいにしていく。きちんと名前を出してですね、責任者という人が、それは役人ではなくてですね、そういった知識のある人が……川などについてですね。そうやって、それを叩き台に議論していく住民団体という形でないと。最初から住民が作ってくださいというと、実は裏で糸を引く人たちがいる可能性があるんですね。その意味でいうと、さきほど天野さんがおっしゃったように長野県全体として川というものを、あるいは水系というものをどう捉えていくのか、と。説明にあったように長野県から流れていく川として……というのは、他県から流れてくる川というのは長野県にはないんですね。ですから、それを私は逆に言えば、行政の責任者である私のもとでですね、これを私は県議会などに意見をおろすことはできますから。それをもとに、そういう委員会が全体のグランドデザインを作るということですね。もうひとつ、バスの問題に関していうと、ニジマスというものも外来種で、確かに長野県の水産試験場でもいろいろと……新しいニジマスの品種などが研究されたりしているわけですけども。ただ、バスに関していうと、これはニジマスのケースよりも極めて人為的に日本の自然の水系に登場しているんではないかということですね。そうすると、これは少し違う観点から見なくてはいけないという部分もあります。日本には検疫というものがあります。もちろんSARSのように、検疫があったとしても入り込んでくることはありますけど。バスに関して言うと、私はさまざまな……やんごとない自然への登場の仕方というものもあって、そうでないケースもあると思いますけど。そのへんは水口さんとは意見を異にするんですね」。
天野「でも私はですね、みなさんどうでしょう。私は、こういうことをきちっと議論するということが、実はバスの論議では一番必要なんじゃないかなと思っているんですね。真剣な議論を避けていて、とにかく「放流したやつらが悪いから土下座しろ」とかね。そういうふうな言い方でしか、あるいはコンピュータの中だけで自分たちが言いたいことを「わぁ〜!」とやりあってる。でも、こういう所に出てやらないできた。やらないできたということは、もうそれ以上、それではいかれないと思うんですよね」。

水口
「ちょっといいですか。今あの、田中知事から一種の
質問というか、疑問が投げかけられたので簡単にお話しますと……。たしかにニジマスとブラックバスでは導入された経緯がだいぶ違うというお話がありましたけど。
基本的には、一番最初に入れられたとき、赤星鉄馬さんが芦ノ湖に入れたときから議論はあったんですけど。その後、行政……水産庁が認めて広げた時期もあるんですよ。それから戦後はですね、私が20年前に全国でアンケート調査したときに、戦後まもなく増えはじめた地域というのは横浜と、それから佐世保と神戸なんですよね。たとえば、小笠原とか沖縄にも今、ブラックバスはすごくいるわけですけど、これはみんな米軍なんですよね。米軍の人たちが、自分たちが釣りたい魚を持ってきた。それが中心になった部分もあります。その後、ずっと増えてなかったんだけど、環境の変化で増えやすくなったときに釣り人が……子供も含めてね、自分の近くで釣れるようにと放流したことも事実としてあったと思います。ですから、その歴史的ないろんな経過を見ていく中では、社会のブラックバスに対する考え方も変わってきたんですよね。そういうことも整理したうえで、じゃあ今どうすればいいかということで、釣り人の密放流が悪いんだからそれですべて片づくという話ではないような面もあるんで。やっぱり、具体的な話をですね」。

田中「だから、それは人為的に……ある程度入植させてきたわけですよね。行政という権力が、精力的に。でも、ダムに関しても、逆にいえばコンクリートというダムを行政という権力が入植させてきたわけです。それは多くの住民たちや生態系、あるいは哲学的にみてもうまくいってないものを除くべきだということが脱ダム宣言で、多くの人たちに支持されて。結果的に国土交通省も脱ダム宣言を認めざるを得ない形になって。その中でまた河川局の生き残りをなんとか模索をしているのが、近自然工法であったり、自然再生計画だと思うんですよ。そうすると、じゃあバスというものが歴史的な役目の中で、今、多くの住民が……やはり民主主義というのは住民が判断していくものであっ
て。で、私はやっぱりこのバスの入植のしかたというものは、改めなくてはいけないことだと思うんです。で、長野県はご存じのとおり内水面漁場管理委員会では、結果としてはブラックバスのリリースを禁止しようということに関して、リリース禁止を推進しようという委員のほうが多かった(注8)わけですよね。ただ、私がよくわからないのはですね、バスを駆除する駆除しないという問題と、このリリースを禁止するということもまた分けて考えないといけないのではないか、ということです。で、なぜリリースを禁止することに反対なさるのかというところを……まぁ、水口さんがそういう立場なのかどうかわかりませんが……」。

水口「私はまず、駆除することは県一律ではなくて、その水体……湖とか川でそう決めたらそのようにしたらいいと思います。それと絡んで、駆除すると決めた所では、できたら釣り人にも協力してほしいと、釣ったらそれを殺してほしいという気持ちなわけです。そこでリリース禁止というものがあるわけですね。ですけども、バスを利用したいと思う湖では、当然駆除はしようとは思わないし、リリース禁止ということもしないで、キャッチ&リリースで利用したいと思うわけです」。

田中「つまり、先生はゾーニングという立場ですよね。では、それは誰が決めるというお考えなのでしょうか」。

水口「それが、地域でということなんです。ですから、本当は……これはこの問題が起こる3年前にはですね、水産庁がゾーニングという案をもってたわけです。それがいろいろなことで宙ぶらりんになっているんですけども」。

田中「それは山梨県においてはゾーニングを行なっているということなんでしょうか?」。

水口「いえいえ、そうではなくて。それは河口湖や神奈川県の芦ノ湖とか……4つの湖では漁業権魚種として、それこそ内水面漁場管理委員会が決めて、調整規則で許可されているわけなんです。これはゾーニングというのとは少し違うんですけども、これは国が認めたというものなので」。

田中「それはゾーニングではない、と」。

水口「ゾーニングというのは、そういう部分も含めて、地域でブラックバスを利用しようとする所と……。だからそのときに、漁業権のない所でもそういうことが起こるわけです。いろいろな人造湖など……」。

田中「漁業権とか水利権というのは、私はもう大変に古式ゆかしいものだと……」。

水口「そういうことです。それも全部絡んできます」。

田中「冒頭で言ったように、いったい誰が持ってるのか、と。そうすると、やはり私は漁業権というものも……。たとえば埋め立てで関西空港や神戸空港、中部空港を作ることの大きな計画の妥当性は議論されなくてはいけないんですけど、これによって淡路島の人たちには膨大な漁業権の補償というものがなされているわけで。農業者の場合に、たとえば野菜を作っていて誰かがその土地などを奪えば訴訟とかいうことになるんでしょうけど……海とか川とかいうものは共有財産ですよね。そして、海の魚の場合などは必ずしも養殖しているわけでもないですよね。なぜああいう形のものがそのまま、古式ゆかしく残っているのか……水利権などもいろいろ問題だと思うんですけども。ただ、住民が決めるといいますけど、具体的に先生はどういう基準によって、どう決めるかという叩き台のようなものはお持ちではないのでしょうか。その、ゾーニングということについてですが」。
水口「ゾーニングというのは、結果としてゾーニングになるわけです。ひとつひとつの湖とか川で、それに関係する人みんなで話し合って、ブラックバスを駆除するか、それとも利用するかを決めるということです。結果として全国的に見ればゾーニングになるということであって、ひとつひとつの所はゾーニングでもなんでもなくて。たとえば諏訪湖の半分を駆除で半分を利用という話ではないです。そこの丸ごとひとつが駆除か、利用かということです。

田中「ただ長野県の場合は水源県で、そこの中だけで単独で、あるいはゾーニングのエリアとして完結しにくいですよね」。

水口
「それはもう、実際に繋がってますから。ですから、
そういう意味では 利用する所から極力出ないようにするとか、山上湖のような限られた場所とか、そういうことをそれぞれ考えていけばいいと思います。それから、あと基本的には……根絶とか、逆にいえば爆発的に増えるとかいいますけれども、これまでの日本でのブラックバスのデータなどを見てみますと、簡単にはもう、今、ブラックバスが増えられない状態になってます、環境的にも。今、諏訪湖はひところのひどい状態からよくなっているので今ブラックバスが増えだしたという側面もあるので。そういうこともいろいろ含めて、環境をまずどうするかということがひとつある。もうひとつは、駆除する場合に絶滅といいますけど、絶滅なんてできっこないんで、問題にならないレベルに抑えるということですよね。問題があるから駆除といっているわけですから、問題のないレベルまで減らすということですね」。

田中「駆除ということでいうと、長野県の場合は自然発生的なマツクイムシ(注9)のような問題もあって。長野県はマツクイムシの予算に関しても、県単独のものでやっているわけですね。これはもう自然の中で、あるところまで……極論すればマツが、カラマツを含めて多くなりすぎたことへの警鐘かもしれませんし。そうした意味でいうと、人為的に入ってきたブラックバスをどう捉えるかということも考えなくてはならない。ただ、リリースを禁止するということに関して、私はですね、このリリースを禁止するということに対して魚が可哀相というような意見もあるわけですけど。そうやって考えると、ジャパン・スポーツフィッシング・アソシエーションなわけであってね、スポーツとして捉えている。じゃぁもっといえば、魚の口の中を傷つけること自体がどうなのかと……」。

水口「そうなれば釣りもできませんし、漁業もできなくなりますよね。魚を食うこと自体が可哀想だということになりますから」。

田中「であれば、仮にその、ゾーニングということも、自然の中で自由に……生態系でのブラックバスの繁殖や滅亡というものも自然に任せるべきであるとは、水口さんもお考えではないわけですよね」。

水口「もちろん、そんなことは考えていません」。

田中「そうするとやはり、ゾーニングを行なうということもまたある種、人為的になんらかのことを行なうということですよね」。

水口「そういうことです」。

田中「そうした中で、おそらく長野県の漁場管理委員会はですね、リリースということに関しては禁止にしようと言ってるわけですね。ブラックバスの駆除ということを、税金という公金を使って大々的にやろうという方向を今打ち出しているわけではないわけです。だから私はそういう意味において、リリースの禁止というのはですね、どういう漁業の関係者によって構成されているかという問題はあるにしても、その方向性というものは私は一定の理解をされていると考えています」。
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