2005年09月15日

リー・シッソンとロン・トロイヤーの話--その4(最終回)

今日のオススメ曲「Grechen WilsonのHome Wrecker」

 レストランの外で順番待ちをする間、私はロン・トロイヤーに、リー・シッソンがバグリーに入社する以前に作ったハンドメイドのDB3を見たことはあるかと聞いたら、「まずは、リーの工場の2階にある倉庫の話から、はじめなきゃならないな」と微笑した。シッソンは苦笑いして、「ロンは50%くらい話を大きくして伝えるから、半分はジョーダンだと思っていいぞ」と言う。「でも、今回の話は、大げさに言うまでもない。見たままを言う」とトロイヤーが返した。

 「最初、私はリーが手削りで製作したDB3をいまだに持ているとは知らなかった。工場の2階には昔作ったルアーが置いてあると聞いてはいたが、あれは倉庫と呼ぶにはいたらない。ゴミ箱をひっくり返した状態の部屋で、どれがゴミで、どれがキープしたい物なのか、さっぱり見当がつかない。何かについて話していたとき、『工場の2階にオリジナルDB3が置いてある』と聞いて、マジか!? と思った。私からすれば、オリジナルDB3は、博物館に飾ってもいいほど画期的で歴史的にも素晴らしいクリエーションだ。なのに、リーはあのゴミ部屋に置いていて、しかもどこにあるのかすらわからないと言うんだ。工場にしたって、掃除なんて作業はない。私は彼の工場を使わせてもらってルアーを作っているから、ゴミが出たら掃除をする。ウッドを削るんだから、ゴミの量はハンパじゃない。それで、自分が使った機械やその周りを掃除すると、工場内に陸の孤島ができたように、その部分だけキレイになっている。これでは自分の場所だけ掃除したと思われる。『なんて勝手なヤツなんだ』と思われちゃイヤだから、まぁ、全体的に、なんとなく掃除する。100%キレイにしたところで、次の日にはまた木のクズが散乱するんだ。マジメに掃除なんてできない」と語れば、シッソンが、
 「だから、掃除はやりにくいんだよ。どれだけやっても、また散らかるからな(苦笑)」。
 「いや、それは違う。私はリーが掃除をしているところを見たことがない」とトロイヤー。
 そこで私も、「以前、リーがウチの工場に遊びに来いよって言ってくれて、家にも泊めてやるからと言われた。でも、『まずは掃除から教えてやるから。その次に色塗りとか、ルアーの作り方を教えてやる』と言ってましたね」と告げると、トロイヤーは「やっぱりな」といった感じの表情を見せた。

 「彼はキミの要望(取材)を受けて、久しぶりにDB3を探す決心がついたんだ。丸一日かかって探していた。フロリダの夏は暑い。倉庫はもっと暑くて、室内温度は50℃を越える。そこに入って探すのはいいが、いい加減工場に下りてこないから、こっちが心配するんだよ。面白いことに、探していると、別のレアアイテムが見つかる」と言うと、シッソンが割って入る。
 「ジッターバグを知ってるだろ? 第二次世界大戦で……私たちは日本に勝ってしまったが……当時、金属をなるべく使用しないように、ジッターバグのリップにはプラスチックを使用したんだ」とシッソン。そこで、そのルアーは日本にも入っていて、マニアの間で重宝されていると伝えた。
 するとトロイヤーが、「リーは、あのレアアイテムを倉庫で発見した。だが、部屋が暑くなり過ぎて、ルアー形状が変形していたんだ。彼はそれを私に見せて、『こんなんになっちまってる』と笑っていたが、その瞬間、私は凍りついた。もしかしてDB3も……ってね。なかには塗装にヒビが入った彼のオールド作品もあったが、DB3は大丈夫だった。嫌な汗をかかされた」。
 シッソンは基本的に、作ってしまったものにはあまり気にならない性格なのだ。「ルーというブランドを知っているか? BB1をいうリールは知っているか?」とシッソンが尋ねてきた。ライフタイムモデルを見たことがあると言うと、シッソンは、「私はルー・チルドレから直接もらった」と誇らしげに語った。私とトロイヤーは目を丸くした。
 「あれは70年代初頭だったと思う。私がバグリーに入ったくらいだったか、ルーと会って話す機会があったんだ。彼はちょうど製造元(シマノ)からBB1のサンプルを受け取って間もないころで、頻繁に釣行するアングラーに使わせて感想を聞きたいと思っていたらしい。それで私はプロトのスイミングテストでよく釣行するから、彼のイメージにピタッリとはまった。それでライフタイムモデルのサンプル品を譲り受けた。このサンプルは、たぶん、この世に5個しか存在しない。しかも私は1度も箱から出していない」。
 「『出していない』って、使ってくれと言われてもらったんだろ?」とトロイヤー。
 するとシッソンは、「そうなんだが、そんな貴重品は使いづらいなと思って、少し置いておいたんだ。そうしたら、連絡が来て、製品化するからと言われて、結局そのままなんだ。で、ライフタイムモデルは『ルー・チルドレが生きている間は、壊れても直しますよ』といった特別限定モデルだろ? でもな、ルーは、あのリールを作って10年も満たないうちに死んじゃったんだ。だから、今使って壊れてら修理してもらいない」と言えば、トロイヤーは「そんな問題じゃないだろ」とナイスなツッコミを入れた。
 まさかと思い、いまだに倉庫に置いてあるのかと聞いたら、ニッコリ笑って頷いた。それを見たトロイヤーは被っていたキャップを取って、顔を赤らめ、人差し指を突きだして何かを言いかけたが、やめた。何が言いたいかは、彼の顔を見れば一目瞭然だった。
 シッソンは、「ロンは熱くなりやすい性格なんだ。リールは倉庫から自宅に持って帰ったよ(笑)」と加えたが、「それはウソだ」と切り替えされていた。
 
 このふたり、面白すぎる。
 
終わり。
 

Posted by DODGE at 2005年09月15日 17:11 in 釣り