第11回W.B.S.クラシック・レポート

 
新世代革命。まさかの逆転劇。ファンや観衆の期待に応えたのは、大藪厳太郎。それがW.B.S. CLASSIC XIにあった。
 W.B.S. Pro-Team Tournament第5戦は、事実上、2001-2002年度シーズンの最終戦であり、同大会を切り抜けられた選手のみが年間最終順位の上位に位置することができる。この年間順位(アングラー・オブ・ザ・イヤー・スタンディングス)の15位までが同団体クラシックに自動的にクオリファイされる(他には、昨年の優勝者、ノンボーター枠から3名、スーパー3デイズから3名もクオリファイされる)。
 結果からいうと、第11回W.B.S.クラシックを制したのは、クラシック初優勝の大藪厳太郎さんである。しかし、彼は「ホントは年間優勝をねらっていたんですが、ダメでした」と語る。
 今シーズンの大藪さんは、目に余るほどの好成績を残している。第1戦:4位、第2戦:7位、第3戦:2位、第4戦:1位と、ここまでは順調に来ていた。第3戦の表彰式ではすでに、「年間優勝も見えてきましたね」と質問されると、「その質問はやめましょう。気にすると、成績が悪くなる気がしますから」と謙遜したコメントをしているが、この時点ですでに今シーズンもっとも注目されるべき選手として名を挙がっていたのも事実である。
 しかし、もっとも重要だった第5戦で彼は29位に終わる。40組が出場し、11組が7尾のリミットメイクに成功する中、大藪さんは3尾で29位と痛い結果を残した。これが彼を年間2位にさせた最大の要因だった。
 「すごく悔しかったですね。自分の中では、今年は(年間優勝を)取れると思っていましたから。だから、クラシック優勝は絶対にほしかった」と述べている。
 アングラー・オブ・ザ・イヤーの栄冠を獲得できなかった悔しさから一時期「なんでダメだったんだろう……」と気持ちが沈んだときもあったという。だが、それが逆の効果に発展し、「だったらクラシックを取ってやろう」とプロアングラーの本能が大藪さんに奮い立たせた。
 大藪厳太郎さんは、人として話しやすい・付き合いやすいとよくいわれている。マジメな性格の反面、周りの人を楽しませる楽観的な一面もある。仕事は某大手広告代理店に勤続する会社員。日々忙しい毎日を送っている。
 W.B.S.に参戦する以前はNBCチャプターにも参戦していた経験も持つが、今回のクラシック出場者のリストを見てもわかるように、ほとんどの選手がW.B.S.の創世記から参戦する先鋭ばかりだ。このメンバーに勝つための努力は、計り知れない練習の成果にあった。
 「大藪さんは、1冊のノートを持っています」と関係者は語る。プラや本戦の結果やエリア、ルアーなど詳細に渡って書き示しているという。ここで重要なのは、彼はこれにプラや本戦の“反省点”も書き込んでいることだ。これらの豪華出場メンバーには生半可な記憶だけでは、到底太刀打ちできない。それをサポートする意味でも、この“大藪ノート”は今大会に大きな役目を果たしたことだろう。
 フィッシング・センスも優れている。第5戦を除く残り4戦で、彼は彼が想像したとおりの展開を結果として残した。
 同クラシックのプラに関しては、天候や水質の問題から、それかが落ち着くのを待って、9月に入ってから本格的にプラをはじめたらしい。他人の情報に惑わされぬよう自分のパターンを切り開くために、彼はあえて9月初頭からプラをはじめたのだ。
 ビッグフィッシュが多く釣り上げられるカスミのバスフィッシングでは、杭、ブッシュなどへのピッチングやフリッピング、ディープのヘビキャロのように、ストロング・スタイルが目立つ。大藪さんもこれらのテクニックを得意とする選手であるが、彼は早くからライトラインのスピニングタックルにも着手し、勝つためのパターンに織り込んでいた。中には「そこまでして勝ちたくない」という選手もいるかもしれないが、大藪さんのトーナメント・フィッシングを勝ち抜くための執着心は、W.B.S.トップクラスである。
 切り替えの早さも彼の特徴だろう。彼は同クラシック初日、18人中13位、ウエイトは2860g。暫定首位だった川口信明さんの5510gとは3kg近い差がついていた。
 「初日、自分が思っていたのはバスは浮いているということだったんですが、上手くバスが釣れない。でも、バスがそこにいることはわかっていたので、エリアはあっている。それで今日(2日め)、ボトムを中心にやってみたら、1300g程度のが釣れた。やっぱりいるじゃんと思って、東岸で4000gをとりあえず取った。それで風が弱まったのんで、南岸に入ることにしました」と語る。
 トップと3kg離されていても自分のエリアを信じる執着心、ミドルレンジからボトムのパターンにチェンジする決断力、釣れていた東岸を捨てて、あえて南岸に向かったチャンレンジ精神。今大会の大藪厳太郎さんのパターンをどこで断片的に切ったとしても、最終日、彼はそのパターンを完全に自分のものにしていた。
 ちなみに、大藪さんは初日のビッグフィッシュ賞(1700g)も獲得した。ルアーはAir Vipar社のダッジスルーだった。

  私は、今年のW.B.S.クラシックに出場する選手にビッグウエイトの期待をかけていた。“釣れない”もしくは、“釣りづらくなった”といわれるカスミで、もう1度ビッグウエイトを見せてほしかった。数年前に比べ、カスミにおけるバスのサイズ、バスのストック量は減少していると多くのアングラーが語っているが、それでも私は期待していた。
 大藪厳太郎さんはやってくれた。最終日、クラシックを締めくくるには最高のウエイト、8650gをマークした。今シーズン全5戦とスーパー3デイズも含め8kgを超えるウエイトが出たのは、同クラシックの最終日、大藪さんのウエイトのみである。
 彼は、カスミ復活の期待に応えてくれた。