BASS FISHING IN ITALY
 

 “どこにいようと、バスはバスだ……”。今までこのフレーズを何度となく聞いてきただろう。事実このフレーズは正解で、イタリアに住んでいようが、アメリカだろうが、日本だろうがバスの生態・性格は同じなのだ。


 私の名前は、パオロ・バンニーニ(Paolo Vannini)。今回からbasswaveで、イタリアにおけるバスフィッシング・ナビゲーターを務めることになった。私自身、イタリアのバスフィッシング専門雑誌で記事を書く傍ら、トーナメント団体の役員も務めている。私に興味を持ってもらえればそれも嬉しいが、今回はバスフィッシング・イン・イタリアということで、イタリアにおけるバスフィッシングの序章をお伝えしよう。
 イタリアにおけるこの“スポーツ”について話を進行させることを前提に、イタリアのバスについて触れておこう。ノーザン・ラージマウスの血を引くブラックバスは、1800年代後半にスポーツフィッシングと食用を目的にイタリアに移入された。ただ、移入はされていたものの、スポーツフィッシングが盛んになる1970年代ころまでは、あまり注目された魚種ではなかった。それが、トラウトやコイ、パイク、チャブ(ウグイの一種)と並んでアングラーたちが競って釣りはじめたのがこの時期だったのだ。一般的には、ショップのセールコーナーで販売されているノベザオに丸いウキをつけてエサ釣りをするという、もっともトラディショナルな釣りがイタリアには根付いている。また、イタリアには“バスフィッシング”の古い歴史がないということもあり、現在このスポーツフィッシングが危機に瀕していることを知っておいてほしい。
 現在、バスはイタリアのどこに行っても捜すことができる。スイスとの国境近くにある大規模なナチュラルレイクからシチリア島、野池、リザーバー、ナチュラルレイク、また、河川の流れの中でもバスを見つけることができるだろう。バスのサイズは、日本にいるバスのサイズとそんなに変わらない。釣れてくるアベレージサイズは500g〜1kgくらいで、2kgのバスを釣ることもさほど難しいことではなく、春先はビッグフィッシュの確率が高くなる。しかし、それと同時にイタリアのバス事情は、普通とは言い難い難題に直面もしている。あるイタリアの地域での話だが、たとえば、「バスを釣り上げたらリリースしてはいけない」という条例がある。理由としては、バスが危険な外来魚であることと、生態系的によくないということらしい。実際にこの条例を犯すと、高額の罰金を支払うハメになる……。
 もう1つの問題としては、イタリアにキャッチ&リリースという行為自体が深く浸透していないことだろう。これは、戦時中や戦後、イタリアの人々が食料不足に苦しんだという文化的背景も重なっている。そのことを責めるわけにもいかないが、当時から密漁というか、「捕って食べられる魚は、捕って食す」というのが一般的なのだ。そのため、私たちスポーツアングラーは、バスをキャッチした後にリリースすることの重要性を人々に教えてもいる。これは、私たちがアングラーだからという以前に、後世にこの自然と魚種を残せるようにと願ってのことだ。
 
 では、次は私自身のことを少し触れることにしよう。私は1985年にフライフィッシングを通してバスフィッシングに出会った。小さなころからずっと自分のことをアングラーだと思って釣りをしてきたが、「釣りの中にも、もっとエキサイティングなスタイルがあるんじゃないのか!?」と疑問に感じていた。フライフィッシングをはじめる以前は、前述したように、ノベザオにウキといったあの古典的な釣りをやっていたわけで、フライフィッシングが新鮮に見えたのも無理はない。そして、ルアーフィッシングに出会う。その後、急速にルアーフィッシングに没頭しだすと、今度は1989年にB.A.S.S.のメンバーになった。そして、イタリアにいる数人のバスアングラーを集結させて、1998年に念願のイタリー・B.A.S.S.フェデレーション(Italy B.A.S.S. Federation)を設立させた。B.A.S.S.のフェデレーションとしては、51番めということになる。日本やアフリカのジンバブエにもフェデレーションがあるので、アメリカ国外初のフェデレーションというわけではない。何に関しても、発足させることは簡単で、それを持続されることが難しい。特に、イタリアではいまだキャッチ&リリースが根付いていない。ゆえに、私たちフェデレーションのメンバーは、日々キャッチ&リリースの大切さとエコ・システムへの優しい気持ちを保てるように人々と話し合っている。
 その他の私個人のエピソードとしては、ライターとしてイタリアでは有名な釣り雑誌に記事を寄稿していることだろう。1つは、“Mosca & Spinning”(英語に訳すなら“Fly & Lure”だろう)で、もう1つはBass Maniaと呼ばれるバスフィッシング専門雑誌だ。私の写真もbasswaveには掲載されているが、見かけによらず結構シャイ(!?)で、家族や仲のいい友達と時間を共にすることが大好きだ。言わなくてもわかるかもしれないが、イタリア人にとって家族を大切にすることは当たり前の考え方であることも加えておこう。
 イタリアでは、意外にも多くのアウトドア・イベントが開催されている。その中でも、バスフィッシング関係のものは多いほうだ。バスフィッシング・トーナメントといってもさまざまなスタイルのものがあり、それらの多くは1988年ころから広まりはじめた。ローカルの小さなクラブ大会やインビテーショナル・オンリー形式の大会、オープントーナメントもあれば、ナショナル・チャンピオンシップもある。ただ、日本やアメリカと違って、それほど参加選手が多くはない。1つの大会のボート数はせいぜい20〜50艇なので、参加選手のアベレージは100人くらいがいいところだといえるのだ。またそれに関係する人々も大会に顔を出しにくるので、150人くらいは大会本部に集まることになる。事実、これらのトーナメントの中で一番重要視されているのは、イタリー・B.A.S.S.・ナショナル・チャンピオンシップ(Italy B.A.S.S. National Championship)で、この大会はイタリアン・ナショナル・フィッシング・フェデレーション(Italian National Fishing Federation)、the B.A.I.T./ N.B.A.オープン・チャンピオンシップ、ベバ・バスマスター・トーナメント(the BEBA BassMaster Tournament)とその他の団体の協力で成り立っている。さらに、イタリアでは“プロフェッショナル”と呼ばれるアングラーはまだ存在せず、トーナメント・トレイルに関しても数社のメーカーがスポンサーとして介入しているだけの現状だ。したがって、イタリアン・バスアングラーの多くは個々の情熱と楽しみのために、トーナメントに参戦しているといっていいだろう。トーナメントルールの基盤となったのはアメリカのB.A.S.S.のもので、B.A.S.S.のメンバーと北イタリアにある米軍基地に駐屯しているバスフィッシング好きの兵士たちとともに作り上げた。その後、イタリアの風土と気質、文化的背景にマッチするようにモディファイされていった。
 今回最後に書きたておきたいことは、「イタリア人の考え方とバスフィッシングをどう感じているのか」についてだ。バスフィッシングというのは、“仲間が集合できるイベント”といった感じで、一緒に時を過ごすための1つの方法であったり、いろんなアイデアをシェアしたり、日常で起こったことやウワサ話をしたりするには、絶好の“集合場所”といっても過言ではない。もちろん大会中はそれに集中して、誰よりも多く大きいバスを釣ることに専念している。その反面、私たちはウエイイン会場にチェックインすることが待ちきれないのも本音なのだ。一度ウエイインしてしまえば、大会後にはテーブルを囲んで3、4時間その場で食事を取りながら、話に没頭する。「今日のオレのエリアはこうだった、あぁだった」だのと、湖上でバスフィッシングしていた以上に盛り上がったりもする。イタリア人は基本的にランチやディナーに時間をかける。これらは私たちにとって社交的な場であって、あらゆることをディスカッションするためにいいことだと思っている。ルアーショップもその延長線上にある。ルアーを買いにショップに行くのだが、「ひょっとしたら友達が来てるんじゃないか?」と期待して通うのだ。それを同じように考えて、友達もショップに来ている。そして、そこで社会文化的な交流がまた芽生えたりする。たとえ、若い世代の子供たちがサッカーをプレイしたり、スポーツカーを運転したり、音楽にのめり込んだりしていても、バスフィッシングはイタリア人の男性にとって、友達と交流するための大切な場であり、大きなウエイトを占めている(女性がスポーツやスポーツフィッシングに大きな興味を見せることはまれで、女性バスアングラー人口は全体の5%以下くらい)。だから、バスフィッシングの面白さ、楽しさの布教に力を注ぎたいのだ(ちょっと、オジさんじみた意見かもしれないが……)。
 というわけで、これがイタリアン・バスフィッシングのイントロだ。少しはイタリアのバスのこと、イタリアン・アングラーの考え方をわかったもらえただろうか。次回は、もっとディープな内容で書いてみたい。イタリアのトーナメントのことや今回紹介した私が書いている雑誌なども紹介したい。また、イタリアン・バス事情についてしりたい人は、ドシドシメールを送ってほしい。ただし、私は日本語が読めないので、英語かイタリア語でお願いしたい。それがあまり得意でなければ、basswaveスタッフが訳して送ってくれるので、contact@basswave.jpまで。
では、最後まで読んでくれてありがとう。
パオロ・バンニーニ

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