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パート4:ジョージのピット

日本のみなさん、こんにちは。

 ここフロリダはすっかり夏の暑さに包まれていて、昼間のバスフィッシングがキツくなってきた。この季節になると、僕はもっぱら朝夕の涼しい時間帯に楽しむことが多くなってくる。
 短い時間で効率よくバスフィッシングを楽しむ場合、重要になるのはフィールドのセレクトだ。レイク・ハリスやレイク・トホ、レイク・オキチョビーのような有名パブリックレイクの場合はトーナメント以外でも州外から訪れるアングラーが多く、どうしてもプレッシャーが高くなる。プロのガイドと釣りをするならまだしも、私のようなレベルのアングラーが短時間でいいスポットを捜すというのは簡単ではない。また、どのレイクも僕の家からは距離があるので、手軽に楽しめるという存在ではない。
 こうなると重要なのが、近場でよく釣れるフィールドということになる。朝や夕方だけロッドを振って、とりあえず1、2尾でもバスの顔が見たい。文字にすると簡単に思えるけど、実際にこのような釣り場を見つけるのは難しい。

 私と同じような気持ちをもっていたのが、ジョージ・カークパトリックだ。上院議員を務めていたジョージは、2003年5月に心臓発作のため他界した。これは彼がまだ在任中のできごとで、聞くところによるとまったく病気の前兆はなく、本当に突然の不幸だったようだ。彼は特に教育面の改善に尽力したことで知られており、経済的に恵まれない学生のための奨学金制度の充実を図ったことでも有名だった。
 もちろん、彼の政治的な手腕は私も知っていたのだが、実は私にとって彼は政治家というより釣り友達の1人だった。同じゲインズビルに住むジョージとは釣り場で知り合ったのだが、釣り場での彼は政治家ではなく釣り人の顔をしていた。その後、彼は自分が所有しているピットに招待してくれた。ピットというのは採掘などでできた穴のことで、フロリダは石灰石や燐の採掘場が多いためピットが多く、水が溜まったピットを釣り場として活用している個人や企業が少なくない。
 

 ジョージのピットは有名フィールドのように大きくはないが、なにしろプライベートな場所なのでプレッシャーが低い。私は何度かこのピットで彼と一緒にバスフィッシングを楽しんだものだ。そしてある日、彼はすっかり意気投合した私に、ピットへ通じる道の鍵を渡し「いつでも好きなときにここで釣りをしてくれ」と話してくれたのだ。
 彼の死後はしばらくご無沙汰をしていたのだが、彼の妻であるモニカに連絡したところ「ぜひ彼の分もピットで釣りを楽しんでほしい」という言葉をいただいた。そこで私は、知人の息子ティムとその友人のAJを連れて、久しぶりにジョージのピットを訪れたのである。もちろん、手には彼が残してくれた形見の鍵を握って……。
 現在大学生のティムは、それほど熱心なバスアングラーではない。子供のころの彼は釣りよりもバスケットボールや野球に夢中だったからだ。そんな彼から珍しく「一緒に釣りに行きたいんだ」という申し出があった。そこでちょうど1週間前、ティムと彼の友だちのアヤと私はウィサラクーチ・リバーに行った。ところが、釣果は決していいとはいえないものだった。私とアヤでなんとかカワイイバスを2尾釣りあげたが、ティムはノーフィッシュに終わった。私は「彼もなんとかあのゼロを挽回したいんだろう」と感じていたので、今回ここに彼を誘ったというわけだ。

 久しぶりに訪れたジョージのピットを見て、私は彼が生前に語っていた“理想のフィールド”の話を思い出した。
 「地元のゲインズビルにあって、整備、警備面もしっかりしていて……。いい景色が整っているのも、もちろん必要要素のひとつだ。あとは、フィッシング・プレッシャーに潰されないように、ある程度のプロテクションがあるといい。それが着々と進行中で、そこに行けば、いつも何かいい意味でのサプライズが起こる。グッドコンディションのバスを放流して、エサを与え、時には間引きして、価値を高めて、エアレーションも必要だし、池にバスを少しずつ満たしていく。魚礁となるストラクチャーも沈めたり、仕事量はハッキリいって多い。でもバスも多い!」。
 
 
 
 かつて、目をキラキラと輝かせてそんな話を聞かせてくれたジョージのことを思い出した。不運なことにジョージはもうこの世を去ってしまったから、彼は自分が作り上げたピットを見られない。でも、彼は天国からこの池を見て、笑っていることだろう。
 なにしろ、この日の結果は1週間前とは比べ物にならなかった。4パウンダーを筆頭に、トータルで20〜25尾。簡単に計算すると、4時間で1人当たり8尾。30分に1人が1尾を釣るんだから、悪くはない。ティムもAJも、バスが釣れるたびに歓声を上げて大喜びだった。
 今日、歓声を上げながら釣りをしている2人の若者を見て、ジョージは喜んでいるだろうなぁ。というのも、彼がホントに欲しいと思っていたのは、子供たちや友達が気軽に楽しめるフィールドだったからだ。全員がバスをキャッチできて私も嬉しかったが、このピットはまだ本来のスゴさを見せていない。次に彼らを “ジョージの楽園”に誘うときには、朝日が昇る美しく静かな雰囲気の下で9〜10パウンダーを釣らせてあげたい。

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