2003/10/1
FLW OutdoorsがまたBASSに宣戦布告
大会日程変更で揺れる第34回バスマスター・クラシック


 先週金曜日(9月26日)、FLW Outdoorsは当初発表されていた来季FLWツアー・チャンピオンシップの日程(9月8〜11日)を7月28〜31日に変更すると報じ、アメリカのバス業界に激震が走った。それは当然である。7月最終週、または8月第1週といえば、バスマスター・クラシックが毎年恒例で開催されてきた時期だ。来季バスマスター・クラシックの日程はいまだ発表されていないが、バス業界関係者であればその週間は暗黙の了解で“クラシック・ウィーク”として決定している。今さらながら「そんなことは知らない」と無視してFLW側が進めたていたのであれば、常識に反する行為であり、意図的にクラシックの観衆を奪い取るような計画とも受け取られかねない。

 BASSは毎年、バスマスター・クラシックの開催地をシーズンがスタートしたのちに最終決定し発表してきた。そもそもクラシックは絶大なる集客能力を持っているため、主催者側が一方的に「ここのレイクで開催する」と決定するのではなく、開催地の自治体がインビテーション、「ウチの町で開催してください」と招き入れるかたちで決定し、開催される。ゆえに、開催湖がタフな場所であったり、魚影が薄い場所でも、町のプッシュ次第でBASSはバスマスター・クラシックの開催をその町+隣接するレイクで開催する。
 現状では、来季(第34回)クラシックの開催地+湖はいまだ正式発表されていないため、FLWは一歩踏み込んで先に日程の変更を企てた。

 たとえば、FLWツアーのビーバー・レイク大会を例に検証してみたい。FLWツアーでは大会の最大スポンサーであるWal-Mart(ウォールマート)のお膝元であるアーカンソー州ビーバー・レイクで毎年同じ時期に大会を開催してきた。1〜2週間のずれはあるが、毎年4月に開催してきた。しかしBASSはFLW側が主張する“暗黙の了解を破った”ため、2003年度はFLWツアー第4戦とBASSバスマスター・ツアー第8戦(カリフォルニア州クリア・レイク)が同じ週に開催されるという、最悪のケースに発展した。

 団体同士が競い合うのはけっこうなことだが、その狭間で「どちらの大会に出場するのか」の選択を余儀なくされた選手の立場はつらい。お互いに「バス業界発展のために高額賞金のトーナメントを開催している」と言ってはいるものの、大会日程が重なったのでは、結局、1つの大会にしか出場できない。

 FLWは、「根本には家族が楽しめるイベントというものがある。家族が揃って釣りを楽しめる時期、学校が休みで家族全員がチャンピオンシップを観戦できる時期を考えれば、(8月に日程を)変更したのは正解だと思っている」とコメントしている。このスケジュールであれば、チャンピオンシップへ出場する選手の家族も実際に会場で応援できる。旧日程ではすでに学校が始業している。その他、ツアー全6戦が消化されて「2ヶ月のブランクののちにチャンピオンシップを開催するのは、選手があらゆる面で負担を感じるため」と加えられている。

 これに対してBASSの動揺は大きい。週明けの29日、同団体はFLWチャンピオンシップのスケジュール変更についてコメントを発表した。BASSのGM兼VPのディーン・ケッセルはFLWの行為に「とてもショックだったし、失望した」と述べている。また「(予定されている第34回クラシックの日程・7月30〜8月1日を)変更するのは不可能」とも語った。
 FLW側の発表があってすぐにBASSはFLWにコンタクトを取り日程変更を再考するように伝えたが、「彼らはそれはないだろう」と答えたという。
 ケッセルは「歴史的に見て、BASSはどのような場合にも大会日程の問題を避けるよう務めてきた。これにより、選手がたくさんの大会に出場できるオプションを与えるとともに、バス釣りで生計が立てられるよう貢献できていたと思う。他団体も同じ方向性で考えてくれていると思っていたが、今回の件、そして今までの件を考慮すると、彼らと我々のゴールは別のところにあるようだ」と語った。

 BASSサイトには、この件に関してジェイ・イエラスのコメントが掲載されている。「来季、私はFLWツアーに参戦しないだろう。長いスパーンで考えたならば、BASSは選手を育てることに貢献してきたし、スポンサーの獲得やキャリア・メイキングでも重要なポジションにある」と発言し、デイビー・ハイトは「私はBASSのクラシック、FLWのチャンピオンシップで優勝した経験がある。ただし、私が紹介を受けるときは決まって『バスマスター・クラシック・チャンピオン、ツー・タイムス・アングラー・オブ・ザ・イヤー』と言われる。クラシック優勝はすべてのドアを開ける大きな役割を持っているし、バスマスター・クラシックこそが、バス釣り競技唯一のワールド・チャンピオンシップなんだ」と語っている。

 選手のなかには、FLW系と呼ばれる者とBASS系と呼ばれる者がいる。長年BASSのサーキットを転戦してきたアングラーは、来季、BASSのみに出場するとウワサされている。それでもFLWチャンピオンシップの優勝賞金は50万ドルであり、逆に考えれば、トップどころが消えた今、多くのFLW系アングラーにとっては頂点に近づくチャンスでもある。だが、強い相手がいない大会で勝ったとしても、選手が心底満足できるのかは、別問題だ。
 また、FLWチャンピオンシップと“予定されている” BASSクラシックの日程を照らし合わせてみると、<7月28〜31日(FLW)---7月30〜8月1日>と完全に重なっている。これは事実上、どちらの大会がより人気があるのか、そしてスポンサー、メディアの数、集客能力などあらゆる面で勝敗が決着することにもなる。

 このような問題は、FLW OutdoorsがOperation Bass時代には到底起こらなかった事態である。レッドマンとして知られたオペレーション・バスの最高峰トーナメントは、アメリカ全土に小さな支部(チャプター)を持ち、選手がそれぞれの地区を勝ち上がってくると、レッドマンに辿り着くシステムだった。現在のようなツアーやエバースタートのような巨大なシリーズはなく、あくまでも地元周辺で開催される大会を勝ち上がる形式だった。レッドマンの魅力は、ウィークエンド・アングラー主体の精神を持っていたからでもある。地区戦を勝ち上がるまで平日の開催はなく、基本的に週末のワンデー・トーナメント。それがジェンマー社オーナーのアーウィン・ジェイコブスとレンジャーボート社のフォレスト・L・ウッドが手を結んだことで、FLWツアーがスタートした。
 その後、オペレーション・バスはFLW Outdoorsと改名し、新スタートを切ったわけだが、FLWはBASSにない試合形式やスポンサー獲得などで勢力を伸ばしてきた。結果、チャンピオンシップの優勝賞金が50万ドルに達した。
 2003年度、BASSはFLWが発足して7年めにしてやっと危機感を感じたのか、賞金額の引き上げとツアーにおける大会数の増加(全6戦から10戦に)を計る。上記したように、2003年度の両団体のツアー・スケジュールが重なることで、誰がどの団体を選択するのか、と業界は揺れた。
 FLWにすれば、恐れるものはない。独自のフォーマットを導入し大会運営を進めている。その反面、BASSにはFLWが驚異の存在として浮上していた。選手の流出、メディアの注目度の低減など、独占市場であったアメリカ・バス・トーナメント界に巨大な敵が現れたのだ。その存在を知っていながら、措置をとってこなかったBASSは怠慢だったのではないかと思う。業界全体の底上げに貢献したという意味でFLWの影響力はいまだ計り知れない。また、BASSは長年に渡りその業界を牽引してきた自負もある。であれば、BASSがリードするかたちで日程交渉などを進めるべきだったのではないだろうか。団体の企業化が進み、選手が団体間の顔色を伺いかがら参戦するのは、どの立場にとっても得なものではない。