2003/1/10
B.A.S.S. とFLWのコンフリクト
トッププロがFLWのみの参戦を表明2
(後編・1月9日前編の続き)

 
 
昨日に引き続き、B.A.S.S.とFLWの双方に参戦していた選手がFLWにのみ参戦することになった経緯を見ていきたい。
 前編ではB.A.S.S.バスマスター・ツアーのブッシュ・アングラー・オブ・ザ・イヤー・パッチのルールと、それに左右された選手、そしてスポンサーとの関係を紹介したが、今回もその部分からスポットライトを当てていこう。
 
 「スポンサーは、そんなに大切なのか!?」というシンプルな疑問があるが、現実的にはスポンサーの存在なしにアメリカのトーナメントを転戦するのは非常に困難である。広大なアメリカでは移動経費やトーナメント会場の滞在費、ガス代や食費がけっして小さくない。
 名の知られた選手たちの場合、エントリー・フィーをスポンサーが負担しているケースも少なくない。2002年度のバスマスター・ツアーのエントリー・フィーは、年間を通して15000ドル、日本円で180万円ほどだ。FLWは通常大会が1戦1800ドル、オープンが2500ドルなので年間12200ドル、日本円で約146万円にもなる(オープンの賞金は通常大会の約2倍)。双方の大会に出場すると、このエントリーフィーだけで約325万円となる。この額をどれだけの選手が自己負担でカバーできるか、ということだ。
 ただし、1戦でも勝てば見返りが多いのも事実。
 以前は、ボート・メーカーがエントリー・フィーを支払っていたことが多かったが、現在のFLWについていえば、フジフィルムやスニッカーズ、ケロッグなどのスポンサーが支払っているケースもあるようだ。それゆえに、自分のメインスポンサーを重視するのは、プロアングラーであり続けるために当然の選択だといえるだろう。もちろん、そこにはお金の問題だけでなく、スポンサーに対する忠誠心があることも忘れてはならないだろう。
 
 ここで余談をひとつ。アーロン・マーテンスには、有名ウイスキー・メーカーのクラウン・ロイヤルがスポンサーについている。彼は同社のシャツを着用し、そのロゴが入った自動車でボートを牽引している。
 ビールとウィスキーという違いはあるものの、クラウン・ロイヤルは、ブッシュのロゴ入りパッチをつけて大会に参戦するマーテンスをどう感じるのだろうか……。
 
 プロアングラーとして生計を立てるには、3つの収入を安定させるのがもっとも望ましい。1つめは賞金。2つめはスポンサーとの契約金。そして、3つめはセミナーなどの出演料である。
 アメリカでは1年を通して数え切れないほどのフィッシング・ショーやセミナーが開催される。聞いた話では、1回の出演で3000ドルを稼ぐ選手もいるらしい。
 ディオン・ヒブドンもその1人である。彼は、今シーズン、FLWのみに参戦する。理由は、過密なスケジュールのため、大会とセミナーの両方をこなすことが難しいからだそうだ。
 多くのショーやセミナーは春に開催されることが多く、当然のことながら、週末がメインだ。となると、B.A.S.S.とFLWの両方のツアーに参戦すれば、ひと月のうち3週は大会で消化されてしまう。FLWだけであれば、1週で済む計算になる。高いリスクを負って確実性に乏しい賞金だけを狙うより、安定した収入を得られるセミナーやショーへの出演との両立を選択したわけだ。
 ヒブドンは、年間30本のセミナーをこなしているという。
 プロアングラーとして活躍するかたわら、レンジャー・ボートの営業を務めるロブ・キルビーもFLWのみの参戦としたらしいのだが、彼もショーやセミナーへの出演を重要視したようだ。
 
 経済的な理由以外でFLWのみに参戦することを決めた選手もいる。ヒブドンやキルビーはスケジュールを問題視している。トーナメントが過密になれば、身の回りを整頓する時間も遮られる。移動の間に衣服の洗濯、また雑誌などに原稿を書く選手もいる。ボートや自動車が故障した場合、次の大会に間に合うのかなど、ひと月に3つものメジャー大会に出場することは、経済面以外の部分でも厳しい状況となってしまうのだ。
 
 では、なぜ月2回のペースで進行するB.A.S.S.ではなく月1回ペースのFLWを優先した選手が多いのか。それは、プラクティス期間にもあった。
 B.A.S.S.の新ルールでは、大会開催の30日前からトーナメントウォーターに立ち入りできない。デイビー・ハイトは「1ヶ月前に捜した魚が、その場にいるとは思えない」とB.A.S.S.サイトで語っていた。大会直前の公式プラクティスは3日間。釣り慣れたレイクならともかく、1度も釣ったことのないレイクでは、確かにハードである。
 一方でFLWには、プラクティスに制限がない。
 時間があれば家族と時間を過ごすこともできるが、バスマスター・ツアーとFLW、そしてセミナーをこなせば、年間280日は家を離れる計算になる。
 もちろん、宗教的な理由から、アルコール・メーカーのロゴが入ったパッチを着用できない選手もいる。
 レンジャー・ボートとの契約があるため、FLWを優先したアングラーもいるだろう。
 
 そもそも、B.A.S.S.がツアーの試合回数を年間6戦から10戦にした理由は、選手たちから「年間6戦だけでは少なすぎる。それではやっていけない」という声が多かったからだ。
 しかし、その10戦を1月から5月という短期間で消化させるわけは、どこにあったのだろうか。バスマスターズ・クラシックは8月1〜3日の日程で開催される。7月初旬に全日程が終了するスケジュールでも充分に間に合う気がするのだが……。
 
 今までB.A.S.S.の強みとして、ESPNのTV放送が挙げられていたが、ソフトの面でもFLWは巻き返している。FLWは今シーズンよりOutdoor Life Networkとタッグを結成。番組のキャスターには、ラリー・ニクソンとハンク・パーカーが就任した。ニクソンは、昨シーズンまでFLWに参戦していた現役選手であり、パーカーは自らのTV番組を持っている。
 そして、今シーズンは大森貴洋さんに加え、下野正希さん、並木敏成さん、清水盛三さんもFLWに参戦する。
 今年は、B.A.S.S.のみならず、FLWからも目が離せなくなるだろう。