2002/9/18
FLW Tourチャンピオンシップ
レビュー


 
年に1度のビッグイベントであったB.A.S.S.Bassmasters Classicに、1996年から新たにスタートしたFLW TourのFLW Tourチャンピオンシップが加わり、現在では年に2度のビッグイベントが開催されている。FLWは現来Operation Bassを母体に進化を遂げた団体だけに、新規参入した団体ではない。ただ、大会レベルを当時のB.A.S.S.Bassmaster Top100レベルに近づけ、リ・スタートを切っただけだった。しかし、これはプロアングラーにとってオイシイ話であったことは間違いない。
 
 当時、プロアングラーは、B.A.S.S.のTop100とインビテーショナルをメインに自分の年間スケジュールを合わせてきた。中には地元のローカル・トーナメントに参戦する選手もいただろう。Operation Bass時代のプライマリー・トーナメントだったRedmanと掛け持ちでB.A.S.S.の大会に参戦する選手も少なくはなかった。
 そのスタイルは1996年から姿を変えた。FLW Tourの参入である。FLWはB.A.S.S.とは孤立したフォーマットやルールを設定することで、“観衆に見せること”や“プロ競技としてのサバイバル性”を前面に押し出した。本戦4日間の内、3日めは暫定トップ10名で釣技され、最終日はさらにトップ5まで絞られる。3日めまではノンボーターと同船して釣技を行うが、最終日にはTVカメラが5艇のボートに乗り込み、一部始終を録画+生放送の形で会場に詰めかけたファンに放送した。この放送にはホストを務めるVJがいて、彼が解説を加えながらの放送となった。
 また、FLWの主催者が取った方向性は、B.A.S.S.にないもので、もっとも重要と思案されたものもある。釣り具業界以外のスポンサーの獲得だ。フジフィルム、エナジャイザー、USバンクやその他ガソリン会社、食品会社、自動車パーツ関連会社など、FLW主催者はバスフィッシングを他のスポーツと同様なほどポピュラーな存在にしようと試みた。
 現在FLWは、カーレーシングのNASCARやF-1とよく比較される。レーサーは、スポンサー企業のパッチをつけ、車にスポンサーのロゴを載せて走る。FLWもそれに近い存在になりつつある。ボートにスポンサーロゴを掲載して釣技している。
 もちろん、プロアングラーにとって、これらのファクターはプラスであった。別のツアーレベルの大会に参戦することで、賞金を稼ぐチャンスが上がれば、TVに露出されることでファンも増加し、スポンサーからも還元されやすくなった。
 もちろん、この方向性を拒んだ選手も多く、FLWに参戦しない選手もいる。
 
 FLW主催者は大会に参戦する選手だけでなく、観戦する側にも楽しめる大会作りを第一に考えてきた。それの集大成となったのが、今シーズンを締めくくったFLW Tourチャンピオンシップだった。
 ブラケット・スタイルの導入、スロット・リミットが存在するレイクでの開催と、ある意味、B.A.S.S.よりオープンマインドな視野の広さが突出しているように感じる。
 
 同チャンピオンシップが開催される前、このブラケット・スタイルに関しては、多くの選手や関係者が賛否両論を唱えた。がしかし、大会が終了してみると、おおよその選手や関係者もこのブラケット・スタイルを絶賛とまではいかないにしろ、「こういう大会もありなのでは」と考えを変えた。
 確かに、大会を3日間ないし、4日間を釣り通し、自分のパターンに沿った戦術を優先させてきた選手にとっては、非常に釣技しにくいルールだったに違いないが、「こういうルールでもバスフィッシング・トーナメントを開催できる」ということをFLWは証明した。この実験的ではあるが、新興的なフォーマットや主催は、バスフィッシングを新しい方向性に導く1つのカギになるだろう。
 
 私がこの本戦4日間を通して注目していた部分は、優勝戦線ももちろんだが、ブラケットを勝ち抜く緊迫感だった。前代未聞の勝ち抜き制トーナメントである。“誰 v.s. 誰”を考えるだけでも、いろんな幻想が頭に浮かんだ。「初日にビッグウエイトを持ち込んだ選手が、どこまでそのペースを保持できるのか?」など、考えはじめるとキリがない。
 
 本戦が終了し改めて釣果や結果を見てみると、面白いことに気がついた。アルビン・ショーの成績である。
 彼は今シーズンFLW Tourの年間成績で45位となり、ギリギリでチャンピオンシップにクオリファイされた。彼の同大会における最初の2日間の成績は、6尾で5.4lb。対戦相手のクラーク・ウェンドラントは3尾で4.6lbだったため、ショーが3日めに進んだ。その差、わずか6オンスだった。
 ショーは3日め、トレイシー・アダムスと対戦した。アダムスは前日14.4lbをウエイインし、余裕で3日めに進んだ。ショーも「危ない」と感じていただろう。それに追い打ちを掛けてか、ショーは3日め、ナント1尾で14ozしかウエイインできなかったのだ。だが、アダムスはこの日、痛恨のノーフィッシュだったため、ショーはまたギリギリで最終日に残ることができた。
 だが、彼のウエイトは優勝戦線に躍り出るにはほど遠く、11位決定戦をウェス・トーマスと相まみえることとなった。ここでショーはまたやってしまった。今度は1尾で13ozしかウエイインできなかったのである。しかし、諦めるのは早かった。トーマスはノーフィッシュだったのだ!
 これによりアルビン・ショーの11位が確定したが、この大会開催中、彼はある意味、もっとも神経が擦り切れた選手の1人だったことだろう。仮に同大会が通常ルールで開催されていたら、ショーが11位になることはありえない。
 
 大森貴洋さんは、今年で4度め3年連続のFLW Tourチャンピオンシップ出場を果たした。チャンピオンシップの開催が開始されて7年。その7年間で4度の出場は、素晴らしい成績だと思う(昨年は大会にクオリファイされていたが、同時多発テロの影響で大会は開催されなかった)。
 大森さんがチャンピオンシップに初出場した年、1997年、彼は36位で終わる。2000年に出場したときは、44位で終わった。今年、彼は最終日に残り、9位でフィニッシュしている。当サイト「文字ニュース」の9月9日号で記載したように、今年の大森さんの成績はすこぶる好調だった(9月9日号「ブラケット・マッチアップ」の注目3を参照に)。
 B.A.S.S.に参戦する桐山孝太郎さんもそうだが、彼らは一日本人選手というより、むしろ“世界の桐山”、“世界の大森”と呼ばれるに相応しい(桐山さんの場合、2000年度Classicにて4位になっている)。
 現在、多数日本人の選手がB.A.S.S.に参戦しているが、今後、FLW系トーナメント(FLW TourやEverstart)に参戦を希望する日本人選手が出てくる可能性もある。それを開拓してくれたという意味を踏まえても、大森貴洋さんが残してきた業績は大きい。