2002/11/20
FLWのスポンサー獲得技術

 トーナメント団体はスポンサーの獲得とその存在なしに存続できない。スポンサーが唯一の収入源ではないにしろ、大会のエントリーフィーだけで団体を経営することはまず不可能に近い。大会入賞者への賞金はもちろんのこと、運営スタッフの給料や運営資金が必要不可欠だからである。賞金を選手に多く出すために多種多様な努力を積んで、運営スタッフをボランティアにしたり、オークションなどによって得た資金を運営費用に回している団体もあるが、アメリカの2大トーナメント組織であるB.A.S.S.やFLWは、小さな努力も必要だが、やはりビッグマネーが絡んだスポンサーの獲得の努力が団体の将来を左右する。
 釣り具メーカー(スポンサー)がプロアングラーと契約する場合、100%に近い確率で発生するのが、スポンサーのロゴパッチを着用すること。そのパッチがメディアに露出することで、宣伝効果をねらっているわけだが、契約選手がそのメーカーの名前をメディアに出すことで一般アングラーが記憶し、販売の方向へと繋がる。
 だが、スポンサーが団体と契約する場合、どのような効果があるのだろうか?それをより明確に、よりビジネス的に示した最初の団体といえば、FLW Outdoorsである。
 
 FLW自体の歴史は浅く、1996年からFLW ツアーをスタートさせることで産声を上げた。これ以前はオペレーション・バス(Operation Bass)が経営していたが、アーウィン・ジェイコブスが買収し、FLWと名称を改める。彼はジェンマー社のオーナーであり、ジェンマーはレンジャー・ボートの親会社にあたる。
 彼がとった政策とは、釣り業界以外のジャンルからのスポンサー獲得。NASCARレーシングやF-1のように、自動車メーカー以外のスポンサーを獲得して大会全体の活性化に繋げる方針を打ち出した。彼はその代表的は方針として、ボートにスポンサーロゴを掲載したものを用意すると、それらのボートから釣技することをルール上で義務づけた(大会3日めと最終日のみ)。現在では、それらのスポンサーは選手とも契約し、選手はそのメーカーのロゴ入りシャツを着用している。たとえば、ランディー・ブローキャットはフジフィルム・プロと呼ばれ、また、いつくかのスポンサーは自らのチームを編成している。
 
 最近ではB.A.S.S.も釣り業界以外のスポンサーを獲得している。CITGOはガソリン会社であり、ロン・ジョン・シルバースはファースト・フード系チェーンレストランだ。
 しかし、FLWはさらに上を行く。釣り業界以外の主要スポンサーを挙げてみよう。アルポ・ペット・フーズ(ペットフード)、BFグッドリッジ(タイヤ)、キャストロール(モーターオイル)、シボレー(自動車)、エナジャイザー(乾電池)、エバースタート(バッテリー)、フリート・レイ(食品)、フジフィルム(フィルム)、ケロッグ(食品)、ランド・オー・レイクス(食品)、ラバーメイド(プラスチック容器)、ペプシ(飲料水)、ポーラン・ウィードイーター(農耕鋼機・器具)、ショップ・バック(掃除機)、スニッカーズ(食品)、スタンレー(工具)、U.S.バンク(銀行)、ウォール・マート(量販店)、ACT IIポップコーン(食品)、デビッド・サンフラワー・シード(食品)、フォルガーズ(飲料水)、リプトン(食品)、マクスウェル・ハウス(ホテル)、スキッピー(食品)などがある。
 これら以外にも多くあるが、メジャーなメーカーはこれくらいだろう。
 これだけでは止まらない。数週間前、FLWは来シーズンに向け、7Up(飲料水)とField & Streams(アウトドア雑誌)をスポンサーに獲得している。7Upといえば、コーラ系以外の炭酸飲料のシェア率1位の大手メーカーである。Field & Streamsは発行部数56万部を誇る怪物雑誌で、現在のオーナーはAOL Time Warnerだ。
 そして今週FLWは、ヘルマンズ(食品・マヨネーズを生産する会社。日本でいうキューピー)をスポンサーに獲得した。
 
 B.A.S.S.とFLWのスポンサー枠の違いは、B.A.S.S.のメインスポンサーが母体であるESPNであることと、FLWはウォール・マートであることだろう。B.A.S.S.はアメリカの最大スポーツチャンネルの傘下に入り、比較的安定した状態にある。FLWはアメリカ最大の量販店を身方につけたことだ。
 B.A.S.S.は今シーズンよりアルコール会社(Busch)をスポンサーに加えたが、FLWはアルコール会社のスポンサーを持たない。一方で、FLWはペプシ(コーラ系炭酸飲料)、7Up(コーラ系以外の炭酸飲料)、フォルガーズ(炭酸以外の飲料)の3つを獲得している。
 B.A.S.S.とFLWは共に自動車関連会社との契約をしているが、その数はFLWの方が圧倒的に多い。
 
 ここでわかるのは、FLW ツアーのメインスポンサーであるウォール・マートの存在だ。これらの食品、飲料水、工具などの販売ルートが、大手チェーン量販店のウォール・マートであることである。ウワサでは、タイメックス社がウォール・マートでの販売ルートを失った理由が、FLWスポンサーから離れたからだという。離れれば流通面で大きな打撃が受けるが、逆にスポンサー契約をすることでウォール・マートでの販売ルートを入手する図式が成り立つ。
 ウォール・マートを知らない人のために説明すると、店舗の大きさは日本の郊外型大型スーパーかそれ以上に匹敵する。日本のコンビニのように小さな町にも店舗を構え、販売しているものは、生もの以外ならなんでも取り揃えている感じだ。ゆえに、FLWとスポンサー契約することは、ウォール・マートとの密接な関係を保てることを意味し、大きなスポンサーフィーを支払ったとしても、全国規模の販売ルートを同時に入手することにも繋がる仕組みである。
 
 止まるところを知らない勢いでスポンサーを獲得し続ける理由には、アーウィン・ジェイコブスに思惑があるからだった。彼はFLW Outdoorsサイトで「プロフェッショナル・アングリングはゴルフやテニスにように、多くの人々に認められるスポーツとしてさらに向上させたいと思っていた。しかし、今までプロアングラーはそれほどの評価を受けてこなかった。逆に、彼らも他のアスリートと同等のリスペクトを受け、それなりの報酬も受けるべきだと思う。そのためには、大会を通して授与される賞金額を挙げることは必要不可欠で、釣り業界以外のスポンサーと契約することは、今までにない収入源となるだろう」と語っていた。
 来シーズンのFLWチャンピオンシップの優勝賞金は、50万ドル(1ドル120円換算に6000万円)。FLWが主催するM-1に関しては、最高優勝賞金が100万ドル(1億2000万円)だ。バスフィッシングをメジャーな競技にしようとするジェイコブスの思惑が、現実としてここに証明されている。
 
 ただし、歴史の浅いFLWを軽視する人も多い。ルール面もそうだが、スポンサーが多くとも経営不振が騒がれている。たとえ将来的に倒産することがあるとしても、来シーズンは1月から開幕する。ビッグマネーを獲るために、FLWに参戦する選手の気持ちがわからないでもない。
 新スタイルでトーナメント団体を経営するジェイコブスの方針は、21世紀型団体経営の1つのあり方であることは確かだろう。
 
 FLW Outdoorsのスポンサー関連の発表などは、同団体サイト「プレス・リリース」で見ることができる。