2002/11/8
アメリカにライギョ!?

 ライギョの記事を捜そうとgoogleで“snakehead”をサーチエンジンにかけてみた。すると、大量のデータが出てきた。私としては、特にアメリカでのスネークヘッドの記事を捜していたわけだが、理由は「日本にはライギョという魚がいて、ルアーフィッシングの対象魚として有名なんだよ。英名ではスネークヘッドとして知られているよ」とアメリカ人に伝えると、誰もが「そんな魚は聞いたことがない」と答えた過去があったからだった。
 日本ではライギョをタイワンドジョウと呼ぶこともあり(実際はカムルチーとタイワンドジョウは別種)、中国や東南アジア原産の魚であることが想像できた。アメリカにも観賞魚ルートで輸入されているのかもしれないが、日本のようにそれが湖沼で棲息しているとはいいがたい。ゆえに、アメリカ人が湖沼で見かけないのだろうと思っていた……。
 だが、ごく最近(この夏)、アメリカでは「スネークヘッドが多数の池で発見され、大きな問題となっている」という新聞記事を見た。そこでもう1度データを捜してみることにした。すると、今度は、このスネークヘッドがアメリカで現在、害魚として論争を起こしていたのだ。
 (ここでは、このアメリカのライギョを“ライギョ”とすると語弊があるので、下記ではスネークヘッドを総称して記述する)。
 
 いくつかの記事を読んだその内容を簡潔にまとめると、スネークヘッドがメリーランド州の池で発見され、近々同魚とブラック・カープ(レンギョ・ソウギョの1種)を「species of the injurious wildlife(有害な野生生物の種類)」としてU.S. Fish and Wildlife Service (FWS・アメリカ魚介類及び野生生物局)が認定するとのことだった。
 そこで私はこれらの記事のソースを捜し出すことにした。すると、その出所はMaryland Department of Natural Resources(MDNR・メリーランド州天然資源局)であることがわかった。以下は、同局のウェブサイトに掲載されたインフォメーションを基に、スネークヘッドやその他のアメリカ内に棲息する“alien invasive species”(外来侵入種)の扱われ方をまとめたものである。
 
 最近アメリカで発行された2002年度の「the Federal Register(官報)」には、スネークヘッドやブラック・カープ(いわゆるレンギョのようなコイ科魚類)がアメリカ内において「有害な野生生物の種類」であると記載されている。
 両魚は、おもに3つの経路でアメリカ内に持ち込まれた形跡が高い。1つめは鑑賞目的。特にスネークヘッドはそれに当てはまる。2つめは、キャットフィッシュなどを養殖する池の藻や巻き貝を駆除するために、草食性の強いソウギョやレンギョなどを移入したケース(このときにブラック・カープも混入したと思われる)。最後は、アメリカに移住した中国系人種が食材として輸入していることだという。
 移入ルートがどうであろうと、この「有害な野生生物の種類」にリストアップされたということにより、両魚の輸入やアメリカ国内での輸送ができなくなる。1981年に制定されたLacey Act(レイシー法令)によれば、この「有害な野生生物の種類」に相当する哺乳動物、鳥、魚、または両生動物を許可なしに輸入及び輸送した場合、罰金が科せられ、さらに最高6ヶ月の懲役となる。法令内の「有害な野生生物の種類」とは、人間、農耕目的物、園芸物、植林や森、野生生物に影響する生物のことを指すようだ。
 これ以前にこの「有害な野生生物の種類」に入った種は、zebra mussel(イガイ・カラスガイのような二枚貝)、walking catfish(キャットフィッシュの1種)、mitten crab(中国産のカニ)が含まれている。要するに、これらの外来種は繁殖力が強く、ネイティブの生物に何らかの影響を与えているということだった。
 
 すでにブラック・カープは多州の河川・湖沼で発見・目撃されているが、スネークヘッドが発見されたのは、この夏だという。場所は、アメリカ東海岸沿いにあるメリーランド州のとある池。ここで数尾のスネークヘッドが捕獲された。州は、この池の近くにはリトル・パトゥークセント・リバーがあり、そこにスネークヘッドが移入されることを危惧しているという。
 またウソかホントか、MDNRに勤めるボブ・ランドフォードは「スネークヘッドは、池から這いだしクネクネと歩行(?)し、別の水があるところまで移動する」とのコメントをMDNRサイトに掲載している。
 また、彼が心配することは、スネークヘッドは15ポンドほどに成長し、さらにアメリカ人はこの魚について無知であることだという。もし何も知らないでこの魚をバスを持つようにアゴに指をかければ、あの鋭い歯で噛まれて流血することは間違いない。
 
 しかも、今回メリーランド州で発見されたことで公になったこの情報であるが、調べてみたところ、実はマサチューセッツ州、メイン州、ロードアイランド州、ハワイ州、カリフォルニア州、フロリダ州でも発見されている。さらに、カリフォルニアとフロリダでは幼魚も発見されていることから、自然下での繁殖が成功していることを示唆している(それ以外の個体は、自然産卵か観賞用だった個体を飼いきれなくなって逃がしたのか、判断がつかないらしい)。
 スネークヘッドがアメリカに輸入されはじめたのは30年前で、やはりアジア系マーケットでの販売と観賞が目的らしい。しかも、1997年から2000年の間には、15000尾以上の個体がアメリカに合法輸入されたらしい。
 
 またフロリダ・アトランティック大学のウォルター・コートニー教授は、「スネークヘッドは、カナダから南アメリカで棲息できる適応性がある。FWSがもっと以前に発見し、警告を出していれば、ここまで広まらずに済んだはず。エコロジカルな視点から考慮しても、この魚がアメリカの池にいていいことは1つもない。駆除すべきだと思う」と語っている。
 ブラック・カープは現在のところアメリカ北西部で繁殖を続けるレンギョやソウギョほど深刻ではないが、早期着手が一番の解決法だと考えられている。特に、これらのいわゆる“中国四大家魚”がもしアメリカ五大湖に侵入した場合、漁業的また生態的に大きな打撃を受けるといわれているからだ。
 
 MDNRサイトのこのセクションを見てほしい。ページトップの写真周りに書かれていることは、「この魚を見たことありますか?この中国から来たノーザン・スネークヘッドはメリーランド州のネイティブ・フィッシュではありません。この魚は私たちの水辺のエコシステムに大きな被害をもたらすかもしれません。もしこの魚に出会った場合、水がなくとも数日間生きていられるため、切り刻んで殺してください。そしてMDNRにレポートしてください」とあった。
 
 しかし、その対極の意見を述べる者をいた。フロリダ州マイアミの新聞、マイアミ・ヘラルドのコラミスト、デイブ・バリーだ。
 彼が8月25日に書いた記事、「The Blair Fish Project makes snakeheads stars」の中で、スネークヘッドはゲームフィッシュとして非常に興味深い存在であり、可能性を含んでいる。アングラーがバス釣りを楽しむように、スネークヘッドフィッシングも大きな存在になりうる。駆除するということは非常に残念だ。逆に数を増やしてもいいと考えている。今こそスポーツフィッシャーは立ち上がって、スネークヘッドを守るべきだという。そして最後には「私の意見に賛同する人は、手紙をくれ」とまである。
 
 “害魚論”は、日本に限った話ではないのだ。アメリカでも同じようなことが論じられていた。当サイトOVERSEASにライター、パオロ・バンニーニも述べていたように、イタリアのバスもアメリカからの移入である。今度、彼にイタリアでの害魚問題について伺ってみようと思う。
 
 この記事のおもなソースは、MDNR (ノーザン・スネークヘッド)、MDNR(スネークヘッド情報)、MDNR(フィッシェリー)、IUCN、U.S.環境保護局、ブラック・カープ(中華料理)、マイアミ・ヘラルド、U.S.Newswire(スネークヘッドへの警告)など。