W.B.S.プロチーム・トーナメント第3戦
開催日:5月30日



 近年、W.B.S.ではノンボーター選手が減少しているため、ボーター登録をしたアングラーがノンボーター枠から出場するケースがある。ルール上、競技中の作戦はボーターとノンボーターとの話し合いで決定することになっているが、ボートを用意するというリスクを背負っているだけに「その日の戦術や釣果の責任は、ボーターのほうが重い」と述べるアングラーも中にはいる。これには賛否両論あるかもしれないが、ボーターの意見が尊重される傾向にあることは誰もが認めることだろう。
 ボータールーキーの早水彰さんもボーターとして2004シーズンの登録をしているが、5月30日に開催されたW.B.S. プロチーム・トーナメント2004第3戦では、草深幸範さんのパートナーとしてノンボーター枠からの出場となった。

 彼らには共通した点がいくつかある。1つめはお互いにプロショップを経営していること。草深さんのショップ(エスパー)は東京都小平市に、早水さんのショップ(アウトロー)は東京都西東京市に所在する。直線距離にしておよそ2kmしか離れていないが、お互いこの大会以前に会話をしたことはなかったそうだ。
  2つめは、彼らは共にボーター1年めと2年めのルーキー・アングラーであることだ。草深さんは昨シーズンからボーターとしてエントリーしている。早水さんは今シーズンからボーターにフルエントリーしているが、実は昨シーズンの第3戦からボーター登録の許可が下りている。厳密には草深さんのほうがレギュラー2戦分だけ多くボーターとして参戦しているが、早水さんはスリーデイズにボーターとして出場しているため、W.B.S.においてお互いのボーター歴はほぼ同等と見ていいだろう。
 そして最後の共通点は、お互いに西浦の流入河川での釣りをこよなく愛し、熟知しているということだった。
 お互いが今本戦の戦術とエリアの確認しあったとき、草深さんはメインエリアを清明川にしたいと告げた。試合後、多数のアングラーが「清明川は盲点だったな〜」と囁く中、早水さんは「実は私も普段からよく釣る場所なんです」と草深さんに返答している。

 早水さんは久しぶりにノンボーター出場を経験し「パートナーとの意思の疎通、パターンやエリアの選定がガッチリ2人で合わされば、それが結果としてついてくるもんなんですね」と語っている。確かに近年、夢のような最強タッグチームが続出しているが、いくらトップアングラー同士が組んだとて、戦略をお互いに認めあって、サポートし合える謙虚さと勝利への意欲のベクトルが同じ方向に向いていない限り、いい結果には恵まれない。両者のモチベーションや共通の思い入れという相乗効果が生まれることこそ、1+1が2以上の結果に結びつくといえるだろう。誰と組んでもよい結果を弾き出すという面では、安藤毅さんが“タッグ屋”の名をほしいままにしているが、突如として組み合わさった草深/早水チームこそ、この“タッグ論”を語るうえで格好のサンプルになったといえるかもしれない。
 そんな若い2人が、2位に1160gの差をつけて圧勝。草深さんは2度め、早水さんは初優勝を経験した。今でこそ川パターンが見直されているが、数年前であれば川はノーフィッシュを避けるための“逃げのパターン”とまで見下されていた。しかし今回、彼らは数年前から通い詰めた清明川の戦略で勝った。歩んで来た道は間違いでなかったことが証明されたのだ。

 

梶無川が栄えた理由

 W.B.S.は例年第3戦を4月下旬に開催してきた。遅い春だった昨年、第3戦の勝者は昨シーズンからトーナメント・エリアに加わった桜川で驚異の8kg越えを達成した。ちょうどスポーニングに入ろうとしていたビッグサイズのバスに直撃したのだろう。
 ところが今シーズンの第3戦は5月下旬に開催された。しかも今年は早くから気温・水温が上昇し、バスのスポーニングもひと足早く進行していた。つまり同じ第3戦といっても、今年のバスは昨年とは異なったレンジやスポットにステイしている可能性が高かった。予想できたバスの状態は、スポーニングの最終組、アフタースポーン、そしてアフターから回復したバスの3パターンがあること。
 しかし数年前までアフターのバスが数多くステイしていたブレイク周辺のオダや捨てアミ、また浚渫のバスのストック量が劇的に減少し、梅雨前のこの時期を得意としたアングラーには大きな痛手となっている。
 代わって、ここ数年頭角を現してきたのが、川パターンである。川といっても北利根、小野川、桜川のように川幅の広いものもあれば、高橋川のように浅く、ヘラブナファンの多い流入河川もある。「川パターンは弱い」と語るアングラーも中にはいるだろうが、およそ50個ある霞ヶ浦の流入河川を吟味した上での川パターンでの勝利なら称賛に値する。その川の中でも、今回は東浦の梶無川が特筆に値する存在だったといえるだろう。
 東浦で恋瀬川に続いてポピュラーな梶無川は、1996年に林圭一さんがBasser Allstar Classicで優勝した際、その勝利の舞台になったことで脚光を浴びた。当時は、本湖の浚渫やクイが王道パターンとされており、川で釣れたバスを引っさげて優勝をさらうことは誰もが予想しなかった。それだけに梶無川での林さんの優勝は多くの人の印象に残っていることだろう。
 この川の河口は矢板のようなもので囲まれていて、その内側には浮き魚礁、そしてその魚礁を支えるアンカーが沈んでいる。護岸された河口を抜けると、両岸にはアシ原が続く。川幅は2艇のバスボートがやっと行き来できるほどで、浅いエリアも多い。この川のホットスポットは必然的にブレイクが絡んだショアのアシとなる。流れがダイレクトに当たるベンドは、水深、ストラクチャーともに梶無川ではベストのコンディションで、この川に入ったのであれば必ず攻略したいスポットである。
 私が知っている限り今大会中、梶無川を訪れたのは6組。35組中6組とは多いほうである。ましてや桜川や小野川のように川幅の広い河川ではない。1、2艇によるフィッシング・プレッシャーでバスの活性はすこぶる低下するはずである。それを覚悟の上で数名が入っていた。そこで梶無川のポテンシャルについて再考してみた。

 村中義明さんはプラクティスの段階で梶無川の対岸にある菱木川に注目していた。大会を1週間前に控え湖は増水していた。いい反応を得てはいたが、減水が進めば菱木川(またその河口付近)のバスは移動するだろうと予測。ひとつの川で優勝パターンを組むのが難しいと判断した彼は、対岸の梶無川もターゲットに決めた。この判断を彼はこう分析している。
 「減水を見越したパターンを考えると、水位、カバーの量、シャローとブレイク、ベイト(このときはテナガエビと思われる)が複合していることが必要。梶無川は菱木川以上に無視できない要素がたくさん詰まっていた」と語る。

 
 村中さんがこの川に入り誰も先行者がいないだろうと思っていると、梶無川でもっとも攻略したいスポットのひとつ、中流部南側のアシ原を星洋行さんが陣取っていた。南側がアウトサイド・ベンドになるため水深がある。北岸はかなり浅く、一見するとオイシそうなアシ原だが、南岸のほうが断然バスのストック量が多い。この南岸を攻略した星さんは今大会、見事5位に入賞している。
 「備前川、恋瀬川、花室川、桜川、梶無川とチェックして、中流域の水質がよかったのは恋瀬川、花室川、梶無川だった」と語る星洋行さんは、「備前川は問題外に水質が悪くて、桜川はハイプレッシャーだった。花室川はボートで行ける範囲が少ないしね。そうすると、東浦の恋瀬川と梶無川を絡ませて考えたほうがいいと思った。最終的には梶無川のほうがプラでよく釣れたから行ったんだけど、プレッシャーの低さならこっちの方が上かと。JBはルール上、川は1つめの橋までしか行けない。梶無川は河口から1つめの橋までが近いし、彼らがプラで来たとしても(JBマスターズは翌週に霞ヶ浦で大会を開催した)川にかかるプレッシャーは少ないと考えた。あと、ここは日が昇ると南側にシェードができるんだけど、北側はシェードがなくなる。そうなると、バスは南側に集まる。ねらったのは、深いスポットとクイが絡んだアシ。減水して食い気がなくなったのか、プラのときのように落とせばバイトすることがなくなった。だから、シェイクを加えてバイトさせた」と細かなパターンの組み合わせで梶無川を釣っていたことを明らかにした。

 梶無川の魅力を麻生洋樹さんにもうかがってみた。「川幅が狭いから川全体にシェードができやすいし、そんなショアを攻略しやすい。それに本戦は、雨の影響で西浦に流れ込む川は濁っていた。特に桜川は筑波山から直接流れ込んでるから、ニゴリもあっただろうし、水質もいいほうではなかった。逆に梶無川の水質はよかった。ブレイクとアシが絡んだスポットをねらえば、それなりに答えがでる。パターン通りって感じでしょ。そう考えると、細い川ながらも梶無川のポテンシャルは決して低くない」と語っている。
 今のことろ、昨年から新エリアとして加わった北利根川をメインエリアにして優勝したケースはないが、エリア開拓が進めば、移動のタイムロスを考慮したとしても上位入賞のパターンをこの川から探し当てるアングラーが出てくるはずだ。今後、霞ヶ浦の流入河川をメインとしたパターンは一層深く追求されるだろう。



宮崎友輔さんからの問題提起
挑発的コメントに隠された真意とは!?


 第3戦の表彰式が幕を閉じ、通常であればW.B.S.本部からの連絡事項などが伝えられるのだが、今回はその前に試合観戦に訪れていた宮崎友輔さんがステージに招かれ短いながらコメントを残した。そしてこのコメントの内容が興味深かったので、伝えておきたい。
 現在一時帰国している宮崎さんは、ご存じのとおりBASS CITGOバスマスター・ツアーに参戦している。その宮崎さんは優勝チームへ祝賀の言葉を述べたあとで「(W.B.S.)選手からは熱さが感じられない」という、少々過激なコメントを発した。しかしこの言動に至ったのには理由がある。まずはその部分を述べておきたい。
 
 

 第3戦の競技中、時間を持て余していた私は、忙しい帰国日程の中W.B.S第3戦の観戦に訪れていた宮崎さんと今シーズンの不調(?)について話していた。すると彼は、自分のペースに持っていけなかった試合などを素直に認め、不本意な成績は自分が犯したミスにあると隠さず語ってくれた。
 そんな宮崎さんはどんな状況であれプロの肩書きを背負う以上、プロアングラーとして聞き捨てならない言葉があるという。それは「釣れないからプラをやるだけ無駄」という言い訳だそうだ。
 プロとしてのあるべき姿。プロアングラーがひとつの職業として成立するアメリカと、成立し難い日本とでは、プロの意義は大きく異なる。プロアングラーの本来あるべき姿勢を追求するのなら、今の日本の状況でアメリカと同等のものを求めるのは酷な話だ。
 そんなプロアングラーの生計が成り立つアメリカで活躍する宮崎さんが、日本、いや、W.B.S.参戦選手を“見下して”「情熱を感じない」と発言したのかというと、それは否だ。「熱がない」または「釣れないので、プラに出ない」という言い訳と、「一生懸命やっているが、よい結果が出ない」とでは、バス釣りに対する気迫、心意気が180度異なる。
  また「熱がない」という言葉も、当然のことながらそれがアングラー全員に当てはまるわけではない。

 宮崎さんは、まだ日本人アングラーが少なかった時代からアメリカのサーキットに参戦し、現在はBASS CITGOバスマスターツアーに3年連続で出場している。順調に階段を上がってきたように思われがちだが、その陰では言葉にできない苦労も経験している。
 「プラをしなきゃ勝てません。でも最初のころは、プラを充分にできるガソリン代もなかったんですよ。プラで見つけたエリアに本戦で行ってみたら、『ここは俺が見つけたエリアだ』って言われたりもしました。今でもありますけど、そんなのが普通でしたよ」。
 アングラーの中には恵まれた生活環境から出てきた者も多い。残念ながら、宮崎さんの場合はサポートしてくれる人は多くとも、苦しい状況を乗り越えるには時間がかかった。それでも「やってやる!」という気迫、プラス思考に考える精神的な強さが彼の持ち味になった。
 「吉田さんをはじめとしたW.B.S.のスタッフや選手、スポンサーさんとか家族。みんなに支えられて頑張れましたけど、私をホントに支えたのは“悔しさ”ですね。試合で望んだ結果が出ないとき、試合が終わってから正解のパターンに気づいたとき。全部が悔しかった。期待された以上の成績を残すのは簡単じゃないですけど、ビッグネームはみんな釣ってくる。だからこそ、負けたくないというか、自分を信じてやるしかないんですよ」と折れない気持ちこそが、勝利への1尾を釣るために必要なのだと語っている。
 そこで「妥協することはないのか?」と訊ねると、「それも大切なことかもしれませんし、エリアを捨てることも重要だと思いますけど……。だったら、吉田さんはクランクベイトを捨てて、ライトリグに走ると思いますか? 捨てるくらいなら、周りの状況を見渡してクランクベイトが有効なエリアやスポットに移動すればいい。何でもかんでも、ライトリグとかノーシンカーとか……それでは差がつかないし、勝てないと思います」とあくまでも己が愛するベイトの潜在能力を引き出す釣りを強調した。
 宮崎さんもかつては、固定概念に囚われたことで失敗に繋がった試合もあったという。しかし、踏まれても踏まれても立ち向かう姿勢が、彼の真っ直ぐで純粋なキャラクターを作り出したのであって、そんな彼だからこそ、あのようなコメントを出さずにはいられなかっただろう。

 彼はW.B.S.を通じて自分を応援してくれているすべての人に対して感謝の気持ちをもっているし、事実、アメリカのトーナメントでもW.B.S.のパッチを身につけている。そんな彼が、ともすれば反感をかうことを覚悟で発した言葉の意味は、決して小さくはないはずだ。

 言われたら言い返すだけの強さを見せる。それがストロング・スタイルにこだわるW.B.S.のアングラーであってもらいたい。
 私はあの宮崎さんのコメントをひとつの挑戦状として受け止めたい。
 今後、彼らは精神面でのストロングさを見せて勝利をつかむことができるのだろうか。従来のパターンが成立しにくくなった霞ヶ浦では難しい課題であるのは間違いないのだが……。