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W.B.S.2003年度シリーズ
第3戦レポート


HIDEHIKO MIYAMOTO REBORN
宮本英彦/稲葉隆憲チーム、「桜川MAXウエイト」で8000g越え

 
 トレーラーに乗せられたバスボートがウエイイン会場の真っ正面へと入って止まった。宮本英彦/稲葉隆憲チームである。1尾、そしてまた1尾とライブウェルからバスを取りだし、取材陣の前で高く持ち上げる。記者の真後ろには一般のギャラリーたちがウエイインを見つめていた。
 「デケーッ!あれだけ持ってきたら、(このチームが)勝つんじゃないの?」と声が聞こえてきた。検量はまだ第1組めである。しかし彼らが驚きを隠せないのも無理はない。
 バスマスターズ・クラシックはオフィシャルの判断により、持ち込んだバスの“総重量が軽い順”にウエイインが行なわれ、最後に近づけば近づくほどウエイトが重くなる。競り合いを見せるための演出だ。しかしW.B.S.では基本的にフライト順でウエイインが行なわれるため、その日のトップウエイトが一番最初に検量したチームから出ることもありえるのだ。宮本/稲葉チームがステージへと現れたのは13:10分。正式帰着時間より20分ほど早い。
 ウエイトは7尾で8180g。宮本さんの言葉を借りるなら“桜川MAX”。このエリアをメインとした場合、これ以上のウエイトは出ない。記録的であるという意味である。開始直後から、観衆のボルテージは最高潮に達していた。


 今大会のウエイインを待つ間、異常なまでの興奮と期待感があった。それはどこから生まれてきたものだろうか、と考えた。霞ヶ浦におけるバストーナメントの歴史、不調が続いているベテラン勢への期待度などが、その要因だったのだろうか。この一戦が、カスミの春のポテンシャルを見せつけるものであって欲しいと願う気持ちもあった。しかしこの期待感の最大ファクターは、これまでに開催された2003年度シリーズのタフな状況、ロー・ウエイトを脱してほしいと願うものだった。
 この日、霞ヶ浦ではJBマスターズも開催され、なんと444艇が参戦してのツーデイズ大会も行なわれていた。そんな中、宮本/稲葉組は敢然とカスミに立ち向かいド迫力の8kg越えを成し遂げた。W.B.S.13年における死闘の意地を見せた。そして魅せられた。
 ただし意地だけで試合に勝てるのならば、誰も苦労はしない。高水準の精神力を維持するかたわら、アングラーにとってもっとも重要なものである「戦略」こそが宮本/稲葉チームを勝利に導いたといえるだろう。
 7組がリミットメイクをする中、逃げ切り……いや、2位に約1000gの差をつけての完全勝利。まさにポール・トゥ・ウィンである。
 そう、彼らは一番乗りでステージに上がり、表彰式では一番最後にステージに上がったのだった。

 
 
 
 
桜川のポテンシャル

 W.B.S.では、今季から桜川と北利根川が新エリアとして導入された。これはオフィシャルが決定したルールではなく、W.B.S.参戦アングラーで結成されている選手会の決定事項である。
 「霞ヶ浦の状況に対して変化するので、W.B.S.側で決めるのではなく選手の総意として決めているという方向にしています。例えば小屋下などは、ルールとして決めるのではなく、選手が自粛しているという事にしています」と選手会の一員、松村寛さんは言う。
 では「オフィシャルルールにするとどうなるのか」というと、ルールが1つ増え、2つ増えとなり、最終的には問題が発生しそうなエリアや障害物(小屋や網など)付近は全部禁止となる恐れがある。そのため、W.B.S.オフィシャルは最低限のことを取り決めルールブックに記載し、それとは別に選手会による“自粛エリアやスポット”が存在している。選手の自覚と責任感を信用したルールなのだ。
 現在までにW.B.S.がエリアを拡大したことはない。第2戦から加わった桜川と北利根川が初であることも加えておこう。
 
 桜川と北利根川は新エリアとして、すでにアングラーに多大なる貢献をもたらしていた。第2戦2位の蛯原英夫/橋本悟チームは、早くもこの2つの川をメインパターンとしていたのだ。
 数名の選手に話を聞いたが、「まだ新エリアをチェックしていない」と答えたアングラーが意外に多かったことが印象的だった。
 桜川に限らず霞ヶ浦周辺の河川のバスはサイズが小さいイメージが強く、そのため数が少なくともウエイトアップが見込める本湖を中心にパターンを組むと答えた者。また、北利根川は遠いため(湖面がベタナギの状態で土浦新港から30〜40分のドライブ。エリアは東関東自動車道の橋までで、流入河川、クリークは禁止)、パターンを外したときにロスした時間が取り返せない、といった具合の回答が大半だった。
 
 たしかに、過去のデータを見るとカスミへ流入する河川でのパターンで他を圧倒したことは少ない。多くのアングラーがトップウエイトを絞り出すにはキツいと考えるのも無理はない。リミットメイクを達成できたとしても、ウエイトに伸び悩む危険性は多分にあるのだ。上流に遡ることでよりエリアを独占できるというメリットがある反面、ローウエイトというリスクも存在する……多くのアングラーは河川に対してそんなイメージをもっていたようだ。 
  桜川がよく釣れるエリアであるのは事実だが、W.B.S.においてはトーナメントエリアになってわずか2戦。そのポテンシャルを十二分に引き出せたアングラーはいまだかつていないのも事実だ。
 春のシャローパターンは、ピッチングやフリッピングの応酬となる。川の上流に遡れば、川幅が狭くなる。バスの逃げ場も少なくなり、ハイプレッシャーとなる。ストラクチャーとボートポジション。ショートレンジの真骨頂。それが川パターンの醍醐味である。「ルアーをスポットに送り込む」という動作を“手数”という単純行為で終わらせず、宮本/稲葉チームは、1投1投の重さと深みが重視される戦略をはじき出していた。それが「(桜川で)普段W.B.S.の選手が素通りするような、2級、3級スポットを攻略すること」だった。
 また彼らは本湖ではボートがひしめき合うことを予測し、JBルールでは禁止されているエリアを選択した。JBでは川は1本めの橋までとなっており、それより上流であれば、釣り人が居たとしてもW.B.S.選手か一般アングラーだけとなるわけだ。
 一度上流に上って下りながら釣りをするのが川パターンの基本とされているが、川を遡る際にはボートをアイドリングしなくてはならない。宮本/稲葉チームは、これも時間のロスと判断し、下流域から釣り上がって、もう一度下流部へ釣り下がる方法をとっていた。しかも、上流域は水質が悪く、そのエリアも捨てていた。
 ルアーはスリムセンコー(宮本)とバレット(稲葉)で、フォール中にバイトがあったという。
 4位の中嶋美直/松村寛チームは小野川の上流域をメインとしたが、彼らはライトテキサスを使用した。
 3位の峰村光浩/丹竜治チームはエリアこそは語らなかったものの、ノーシンカーに近いほどのライトテキサスで勝負をかけていたようだ。
 W.B.S.といえば、ヘビーなリグやアップサイズ・ルアーで本湖を釣るのが主流とされてきたが、川パターンは現在のW.B.S.トーナメントと切っても切れない存在となった。時代は、カスミでもライトリグが大会を制圧するときに近づいている。
 
 
 
宮本英彦という人
 
 宮本さんと言えば、W.B.S.発足時からの生粋メンバーである。彼をはじめ、横山鉄夫さん、赤羽修弥さん、布川昭男さん、中根亘さんなど、現在も第一線で活躍する選手たちは、吉田幸二さんが都内で営んでいたお店の常連客だった。「水郷プロ」と呼ばれた北浦をベースとする団体が消滅し、B.A.S.S.参戦などで刺激を受けた吉田さんが決起人となり、W.B.S.が発足された。1990年のことである。
 それに宮本さんが賛同しない理由はなかった。ダイワ精工契約プロとして古くから国内のバス釣り向上に貢献してきた彼が、霞ヶ浦をホームグラウンドとする試合に出場する。これは、カスミ・バス史元年でもあった。
 宮本さんの凄みは、W.B.S.だけに止まらず、JBの大会にも参戦してることだろう。彼だけではなく、他にもJB/NBCやローカルの大会に出場している者もいる。ただし、JBのトップカテゴリー、ワールドシリーズで活躍しているのは、唯一宮本さんのみである。
 ワールド戦がスタートした年、宮本さんはそのメンバーから外れていた。今では大所帯へと発展したワールド参戦者数だが、当時は32名で火蓋を切った。そのメンバーに宮本さんの姿はなかった。
 ワールド戦2年め、宮本さんは自力でワールドメンバーへと昇格。初戦・九州熊本県市房ダムでは、いきなり準優勝を勝ち取った。そして年間総合4位という好成績を残している。初年度不参戦の借りを返したのだ。
 W.B.S.では、初代アングラー・オブ・ザ・イヤーを獲得(1990年)。'93年にはカスミクラシックを制覇する。ここ数年は優勝から遠のいているが、'00年のジャパン・オープン・スーパー・スリー・デイズでは、同じチームダイワプロの泉和摩さんと組み、見事優勝している。
 そう考えると、宮本さんが優勝のコールを受けるのは、4年ぶりのこととなる。最後にシングル優勝を成し遂げたのは'96年のことだ。
 随分と長い間、頂点から遠ざかっていた。他団体の試合に参戦するほか、他の釣りへの興味もあり、本人曰く「(仕事で)釣り三昧の日々」を送っているという。羨ましい話だが、彼が東京湾でカワハギを釣る姿、管理釣り場でトラウトを釣る姿を想像……できなくもない。それだけ釣りが好きなのだ。多種な釣りを経験することで、「カスミのバス釣りの楽しさと難しさ」を再発見することもあるらしい。
  第3戦優勝チームの名が告げられると、吉田幸二さんが「ニヤリ」と微笑んでいた。
 現在のカスミの状況下、宮本さんのようなスターが制覇した意味は大きい。彼の優勝は語り継がれ、カスミ復活の声は全国へ広がるだろう。
 また、宮本さん自身もこれに止まることなく、爆進を継続させてほしい。4年に1度の優勝では、ファンは悲しすぎる。あの宮本さんの笑顔をスグにでも見たいからだ。
 
 
最強タッグチーム登場

 今回で第3戦を迎えたW.B.S.プロチーム・トーナメント2003だが、ノンボーター・エントリーの数はいまだ低迷し、ボーターがノンボーター枠へと回されている。前戦では“掟破りの師弟コンビ”と呼ばれた山田貴之さんと桂裕貴さんがコンビを結成したが、今回は前代未聞のカスミ最強タッグと豪語できる組み合わせが誕生していた。
 本山博之/西村嘉高チームである。本山さんは'93アングラー・オブ・ザ・イヤー、'94アングラー・オブ・ザ・イヤー 、'95クラシック・チャンピオン、'96クラシック・チャンピオン、'96アングラー・オブ・ザ・イヤー、'97アングラー・オブ・ザ・イヤー、'01クラシック・チャンピオン、そしてBasser Allstar Classicでは前人未踏の2年連続優勝を含めて3度の優勝を成し遂げている。西村さんは'97クラシック・チャンピオン、'00アングラー・オブ・ザ・イヤーを獲得し、誰もが認めるW.B.S.のトップアングラーだ。
 向かうところ敵なしとも思われる同ユニットは、組むことすら反則のような実力を持ち合わしている。優勝候補筆頭に挙げられてもおかしくない。
 客観的に見て、1+1が2以上の成績をもたらしそうな雰囲気はあるが、レベルの高い2選手がパートナーとなる場合、意外と噛み合わなわないケースも多い。それを超越したものをこの2名は見せてくれると期待していたが、2尾1860gで21位という順位でフィニッシュした。
 今後、ノンボーター・エントリーが増えなければ、今回のような夢のタッグがまた見られるかもしれない。そういうチームに注目しておくのも、W.B.S.観戦を楽しむ1つの方法だろう(組み合わせはW.B.S.サイトにて試合の10日ほど前に発表される)。