第2回 - 1:
 「明日は明日の風が吹く」

 W.B.S.2003年度シリーズ第2戦を1週間前に控えたある日、「(プラはやっているのだが)まったく見えないんですよ」と心配そうに岩城真路さんが語った。仕事が忙しく、思うようにプラクティスの時間がとれないのだそうだ。職業的に不規則な時間や生活をおくっている彼には、練習の少なさがプレッシャーとしてのしかかっていた。もちろん、これは他のアングラーにも同様のことがいえる。ほとんどのアングラーたちは釣り以外に仕事をもち、少ない時間をなんとかやりくりしてプラの時間を捻出しているのだ。ボーターでの参戦は簡単なものではない。
 しかし、どうしても湖に出ることができない日も少なくない。そんなとき、岩城さんがしていたのはシャドーボクシングならぬ“シャドーフィッシング”だった。
 「去年とか一昨年の釣れ方を思い出して、雑誌とかも読んで、『いまバスはこんな場所にいるんだろうなぁ』って想像を膨らませるんですよ。そうすると、何となく風があって、さざ波が立ってるカスミが見えてくるんです。周りの景色から、それがどの辺りなのかも出てくるんです」と活き活きとした目で語りかけてくる。
 水中のバスの居場所を考えると、3Dのような情景が脳裏に浮かぶ。バスの視点で見た早春のカスミ。ベイトフィッシュが回遊する経路を先回りしたスポットで、バスはひっそりと身を潜めている。これを頭の中に描き出し、ボートポジション、ルアーセレクト、リトリーブ・スピードまでを想定し、フィールドに出られない自分を満足させているという。「仕事が一段落つくと、すぐに釣りのことを考えてしまうんです。お客さんで釣りをする人も多いですから、話が弾みます」と笑った。
 岩城さんにとって唯一の趣味ともいえるバス釣りは、今やプロアングラーとして大舞台に立つほどに成長した。 結果を残すことが求められる世界。やはりボートを浮かべプラに出ることが、もっとも気分を落ち着かせる方法なのだ。「プラのときでも本戦と同じ時間帯でしか釣りをしません」と言う岩城さんは、決められた時間内で練習する。言い換えれば、本戦と想定したプラクティス以外の釣りはしないということだ。
 しかし、今回はオフリミット前に有効なパターンを発見することができなかった……。「パートナー(香取潤一さん)へどう説明すればいいのか」と難しい表情を見せた。

 それでも大会初日、1500gを含む2尾をウエイインした。痛恨のミスで数尾のバスをバラしたという。魚の姿を見たということで、落ち着きを取り戻したのだろう。最終日の朝、彼は意外とリラックスしたムードだった。そのとき、第1戦終了数日後に交わした会話が思いだされた。
 「大会前は、初めてだったので緊張しましたけど、終わってみると、早く次の試合がしたい。なんで3月下旬までないんですかね〜」と笑って話していた。だが2戦め直前には「胃が痛くて、何日もメシが通らないんです」と少々弱気な発言をしている。それを思うと、2日めの朝に見た表情は清々しささえ感じたが……。
 初日の風の影響なのか、最終日の釣果は全体的に落ちた。岩城さんも1尾(820g)のみのウエイインとなった。
 「情けないっていうか、恥ずかしいっていうのか……。プラを大事にしないとダメですね。火曜日(勤務先の定休日)に戻ってきて、もう1回1人でやってみるつもりです」と漏らした。はじめて覗かせた苦悩の顔。励ましの言葉をかけたとしても、そのときの彼にはお節介にしか聞こえなかっただろう。無言で湖面を見つめていた。

 彼が湖上で表現すべきは、闘争心の3文字だったのだ。もっというなら、ルーキーとしてナメられない雰囲気で試合に臨むことだった。だがそれは、あくまでも結果としてついてくるものであり、意識して作り出せるものでもない。「今はとにかく早く試合がしたい」と意気込んでいたあの日の気持ちが今大会に現れていたか、どうなのか、ということである。
 ある意味、このツー・デイズはその意気込みを再検証するにはちょうどよかったのかもしれない。なぜなら、残りの参戦者からも第2戦にかける気合いは充分すぎるものが伝わってきたからだ。だからこそ本気の闘争心、「プラはダメだったけど、一丁やってやるか!」という気迫が必要だったのだ。
 戦前、彼はこんなことも語っていた。「『(プラで釣れていないため)大会でも釣れないかもしれない』っていう選手がいますけど、やる前から負けることを考えるのってプロとして恥ずかしいですよね」と。
 私は今、岩城さんに問いかけたい。「あなたは大会中、心が折れることはありませんでしたか?」と。
 彼は、過ぎたことをグチグチ言う性格ではない。もう次戦に向けて入念なプラに入っているはず。Tommorrow is another day. 明日は明日の風が吹くのを願い、岩城真路さんの第3戦に注目したい。