それほど広くない土浦京成ホテルのひと間には、W.B.S.参戦選手や関係者、そして日頃から同団体、バス釣りを愛するする人たち、そして同イベントの主役である渡辺学さんのファンで埋め尽くされていた。
 W.B.S.関係者からなる「+F実行委員会」が主催する新しい形態のイベント、Plus F(プラス エフ)。同イベントの注釈をW.B.S.サイトから引用すると、「Plus Fは、ミュージックやアート、スポーツやバイオロジーなど様々な分野で活躍されている方をゲストに迎え、日常とは全く違う感動や驚きを体験するための視聴者参加型イベント」だそうだ。
 その第1回「ミュージック+F」は、ゲストにシンガーソングライターに渡辺学さんを迎え、10月13日に開催された。
 入場料は1人4000円(軽食・ドリンク付き)。まだ見ぬ新しい形体のバス釣りと音楽とのイベントだけに、いささか議論の余地を残すところではあるが、チケットの料金設定は通常のライブのそれに近く、あくまでもプロフェッショナルなライブイベントであることが想像させた。
 
 会場入りするとき、チケットをW.B.S.スタッフに見せると、プラス エフのManabu Watanabe仕様の特製Tシャツがもらえた。渡辺学さんのウェブサイト「VOICE OF SOUL」にも書き込んであったが、このTシャツは後々レアモノとなるだろう。
 会場は、通常披露宴で使用されるようなホテルのひと間。中に入れば、丸テーブルがランダムに並び、オーディエンスがそれを取り囲んでいた。
 
 ライブは唐突にスタートした。渡辺学さんとバックメンバーがステージに登場すると、2曲をたて続けにプレイ。MCを交え、スロー・バラードに流れ込む。
 イベントは演奏の合間をぬって吉田幸二さんとゲストのトークショーが進められた。打ち合わせにはなかったと思われる、アメリカから一時帰国していた桐山孝太郎さんとのトークショーがあり、その後、渡辺学さんとのトーク・ショーへと移行した。
 
 今回、渡辺さんは、「バンドとして演奏するのははじめて」という吉田幸二さん作詞の「桜吹雪」をプレイしてみせた。ファンとしては、もっともオイシイ瞬間だったことだろう。
 ふたりの出会いは、共通の知人の結婚式だったらしい。その場で意気投合したふたりは、それ以来何度も釣行を重ねているという。そのような背景があり、吉田さんは渡辺さんのセカンド・アルバム「緑の中で」に収録されている「桜吹雪」の作詞を手掛けた。
 この日、渡辺さんは吉田さんからさらに3曲分の詞を受け取っていたらしい。渡辺さんはその1つ「釣り人生」に即興で曲を付けてプレイするという、ファン冥利につきる実験的演奏も披露してみせた。
 
 音楽的感想をもう少し深く記しておくと、渡辺学さんの音楽の方向性はボーカルが主体のいわゆる“90'sアコースティック・ロック”というジャンルにカテゴリーされる。このタイプの原型は、80年代にデビューを果たしたフリッパーズ・ギターに遡る。音楽性はあくまでもキャッチーなボーカルが基盤となり、全体の静と動のメリハリは、渡辺さんが演奏するアコースティック・ギターとロックベースのバック演奏とのコントラストにある。アコースティック・ロックの雄として名高いMr.チルドレンも同様に、甘くポップなボーカルラインが印象的で、柔らかいギターフレーズとほどよいオクターブで歌い上げる声が、楽曲の抑揚とオーバーオールの展開を支えている。
 同イベントの会場となったのはホテルのひと間であったが、ライブハウスで演奏を聴くより数段、“音の回り”がよかったことも加えておこう。演奏に使用されたのは中型のアンプがそれぞれの楽器に1台ずつ。巨大なPAなどはセットされていない。大音響のライブとは雰囲気が異なる。つなり、それが逆の効果として音の広がりを成功させた秘訣なのではないだろうか。また、ホテルの壁の作りも音が割れなかった1つのファクターだろう。
 ライブハウス以上に臨場感のあるライブだったといえる。
 ステージでは、渡辺さんのバンド仲間である「我が社」というバンドも2曲演奏した。
 
 イベント全体の話に戻るが、Namabu Watanabe + Fは、ディナーショーに近い形体だった気がする。食事があり、トークショーがあり、ライブがある。
 進行のスムーズさ、最良のライブ・パフォーマンス、食事などを含め、プラス エフ第1回興行は成功だったのではないだろうか。 同イベントのコンセプトである“+F”とは「○○とフィッシング」という意味である。バス害魚論が持ち上がり、数年前のような盛り上がりから失走したバス釣りに、W.B.S.がニュー・コンセプトを持って立ち向かった“フィッシングと他ジャンルとのコラボレーション”が、答えとして明確に見えていた。
 同系統のイベントとしては、ヒヨコブランドや津波が主催する“裏釣り博”のBashing Bassing Showがある。方向性としては第1回プラス エフも同じだろう。
 
 新次元のイベントだっただけに、次回プラス エフにも期待したい。