第5回霞ヶ浦意見交換会
 

 7月12日、第5回霞ヶ浦意見交換会が茨城県霞ヶ浦町町民会館にて開催された。今回のテーマ「水質」は茨城県民だけでなく、首都圏全体の人に密接した議題であるため多くの参加者が来場すると予想されたが、前回より若干少ない180名が参加した。それでも会場が比較的小さかったこともあり、用意された椅子はすべて埋め尽くされた。
 会は前回同様、まずは行政側からの「水質に関する基礎知識の説明」が発表され、その後、話題提供者側からの「水質に係わる意見交換」が行なわれた。 
 
 そもそも環境水準とは、「人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」であり、環境基本法や水質汚濁防止法、湖沼水質保全特別措置法に則った施策が進められている。
 行政側からの発表(水質に係る基礎資料・国土交通省霞ヶ浦河川事務所、水資源開発公団霞ヶ浦開発総合管理所、茨城県の共同制作)によると、霞ヶ浦の水質は環境基準を満たしているという。
 
 人々が水辺で暮らすようになってからというもの、霞ヶ浦の歴史は洪水の歴史ともいえるものだ。特に戦前までは護岸整備が行き届いていなかったため、頻繁に洪水が発生した。つまり、排水がうまくできていなかったのだ。水質的にいえば、淡水の時代である。戦後、利根川の浚渫工事や水門設置などの影響で海水が流入。これが汽水時代のはじまりである。ところが、これが原因となって、塩害が誘発された。近代化が進んだ昭和30〜40年代には、霞ヶ浦開発事業が行なわれた。その中で水門の建設が進められ、門を下ろすことで霞ヶ浦は再び淡水の湖に戻っていったのである。この時期以降、霞ヶ浦は北関東圏の水瓶として活用されるわけだが、水門で水の流れを止めることで水質悪化が進み、生態系に影響を及ぼしたという一面も存在する。
 茨城県生活環境部の岡田久司さんは「昭和49年に常陸川水門を閉め、昭和50年代に入りアオコなどが発生し、富栄養化防止条例を昭和56年に作成した」と語る。資料を見ると、経済成長とともに、水質悪化が進んだのがわかる。ピークは昭和53年で、その数年後に条例が作られた。
 たとえば、資料でCOD経年変化図を見てみると、環境基準は3.0mg/Lとある。霞ヶ浦がこの基準に近かったころは昭和30後期から40年初期にかけてで、現在では平均8mg/Lを横這いしている。ちなみに昭和53〜54年にかけては11.3mg/Lであった。
 泥底から出るリンや窒素も水質悪化の原因として考えられている。「リンや窒素は、プランクトンの増殖につながるので、(水質浄化の)課題として受け止めている」と岡田さんは言う。
 
 プランクトンの発生については、水温や日照時間が年によって異なるため、これだけを霞ヶ浦の水質悪化の最大の原因として見るのは難しい。特に一時的に大量発生したものであれば、それが毎年起こるとは言い切れない。ならば、水質悪化は何に強く誘発されるのか。下水処理と農薬、そしてコイ養殖による餌料というのが、一般的な見解である。
 茨城県の下水道の普及率は、全国的に見てまだまだ低い。家庭排水に加え、汚水処理問題が重要な課題として挙げられているという。昭和30年代の霞ヶ浦上流部(土浦市など)の人口と現在を比較すると、1.7倍に膨らんでいる。これに護岸や水門によって水の流れを遮り、下水問題も加われば、水質悪化は当然の結果だ。
 たとえば、植田昌明さんは「霞ヶ浦の水質浄化を考えるなら下水を霞ヶ浦以外の場所に出すべきで、下水道の長さが100kmになろうが、それは技術的に不可能なことではないし、海外ではその前例もある」と述べた。もっともな意見であり、卓上の計算では可能であろうが、逆に政治的、経済的、地域的な問題も浮上し、実現させるためには何十年という時間が必要になる。
 これに対し、行政は「その方向性も視野に入れながら、霞ヶ浦に負荷をかけない下水処理の方法や技術の改善、進歩も必要」と答えた。
 霞ヶ浦流域の主要産業は農業である。周辺都市39市町村による12年度のデータによると、茨城県の水田坪率は全国第5位、レンコンは全国第2位、豚の飼育頭数は全国第3位。農薬、除草剤、畜産排水が正しく下水処理されないまま霞ヶ浦に流入している昨今、これほど水質に悪影響を及ぼすものもない。
 茨城県のもう1つの産業としてコイの養殖がある。生産量は全国1位を誇る。コイの飼料も霞ヶ浦に負荷を与える大きな要因の1つであるが、この部分については多く語られることもなく、会場からの質問もまったくなかった。
 近年、霞ヶ浦で目立つ白濁した水についても、今回は大きく触れられなかった部分である。
 小林静さんは、「養豚場の屎尿や汚濁が直接流入河川に流れ込んでいる。県は努力義務として、なるべく流れないようにしているようだが、法整備をしなければ改善されないこともある」と訴えた。
 
 バス釣り界からは、吉田幸二さんが発言者として意見を伝えた。
 「駆除だと言って湖岸に外来魚を放置していく人がいます。ウジが湧いたり腐ったりして臭いし、水辺の雰囲気も悪くなる。(釣り上げられた外来魚は)持って帰ったり、剥製にして飾るとか、それは各自の自由だと思いますが、もしそういう措置をしないのであれば、そのまま水に戻してあげた方がいいと思う。生きていれば、何らかの役に立つはずです。死んでしまうと、ただのゴミになってしまう。自分がねらってない魚が釣れたら湖岸に放置していくんじゃなくて、食べるとか方法がある。殺して持って帰らないのであれば、その場で逃がしてあげることをお願いしたいと思います。そうすれば、死体から流れ出る汚濁物資もなくなると思います。外来で駆除しないといけないのは、僕はゴミだと思います。今日もゴミ拾いをしてきました。70リットルのバケツが30分でいっぱいになります。釣り人は一生懸命ゴミ拾いをしています。その釣り人に砂をかけるような、外来魚だからといってその辺に捨てていくような行為はしないでいただきたい。是非、持って帰って処分してください」と水質悪化の原因は、ゴミと湖岸で死骸となった魚にもあり、その対処方法について語っていた。
 ゴミ問題については吉田さんだけでなく、升秀夫さんも意見を述べた。升さんは意見書の中で写真を見せながら、「大型廃棄物が霞ヶ浦にあることは悪質だ」と声を上げた。「高山に捨ててあるというのは、重要な意味を持っています。ここには取水塔があります」とゴミが水質に影響を及ぼし、それが水道水として利用されている現状を訴えた。
 
 霞ヶ浦意見交換会自体は、まだ結論を出すという段階に至っていない。むしろ意見を出し合うことで、知らなかったことを知り、知りたいことを質問し、思案してもらいたいことを提案する場である。私たちバスアングラーは、バス釣りに関しては熟知しているが、水質や生態系まで理解している者は少ない。このような会に出席してパネラーの意見に耳を傾けても、直接釣果に結びつかないだろう。
 しかし霞ヶ浦で釣りを楽しみ、その水辺の現状認識を高めるのも、21世紀のバスアングラーの課題なのではないだろうか。確かに、出席している人の多くは地元の年輩者が多く、漁業関係者も多い。ならば、将来を担う若いバスアングラーたちがこのような会に積極的に参加する意味は大きいのではなかろうか。なにより、我々の主張なしに外来魚問題は終わらないからだ。シンポジウムは全国で開催されている。まずは参加することからはじめたい。