第4回霞ヶ浦意見交換会
 

 第4回霞ヶ浦意見交換会が5月17日、茨城県潮来市中央公民館で開催され、「霞ヶ浦の『生態系』」という議題で進められた。
 
 まずは「霞ヶ浦意見交換会」について簡潔に説明しておきたい。
 国土交通省関東地方整備局霞ヶ浦河川事務所サイトには、同会の趣旨がこう記載されている。
 「霞ヶ浦の流域には、約100万人の人々が霞ヶ浦からの恩恵を享受して生活しています。このかけがえのない霞ヶ浦を、みんなでもっと知り、みんなでもっと考え、将来、地域の財産として守っていかなくてはなりません。このため、今後の霞ヶ浦の治水・利水・環境・その他について、流域にお住まいの方々や、霞ヶ浦で研究活動をしている団体等、霞ヶ浦の利用者及び関係行政機関などが一堂に介して、幅広い意見交換・情報交換を行う場として『霞ヶ浦意見交換会』を開催します」。つまり、国土交通省という行政の主催によって、霞ヶ浦の周辺で暮らす住民たちのさまざまな視点から寄せられた意見を「開かれた場」で交換しあうというものだ。現在の霞ヶ浦の状態を考え、その環境を改善するための意見を出し合う会ということである。
 第1回は昨年12月15日に開催され、この「意見交換会」というものの説明や「今、霞ヶ浦に何ができるのか」や「何をすべきなのか」、また「どうやって意見交換会を進行すべきか」などが話し合われた。第2回ではそれらをもとに、以後の意見交換会で話し合うテーマをいくつか決定し、第3回ではそのテーマの1つ、「水位」について議論された。
 霞ヶ浦意見交換会は20名前後のパネラーを迎えて行なわれる。パネラーとなっているのは、主催の国土交通省関東地方整備局霞ヶ浦河川事務所の所員、大学教授、研究者、職漁者、一般市民の代表者など。長年にわたって収集したデータや日々の暮らしの中での体験や知識をもとに霞ヶ浦の現状を発表し、意見が交わされるのだ。
 そして第4回では、バス釣り関係者にも大いに興味のある「生態系」をテーマに会が進行された。
 
 今回ははじめに、生態系に関する基本的資料の説明が行なわれ、その後、生態系に係わる意見交換として一般公募した話題提供者11名がそれぞれに感じている霞ヶ浦の生態系と考え方を述べた(話題提供者は、事前に小論文タイプの資料や意見書を提出。)。
 釣り人が「霞ヶ浦の生態系とは?」と問われた場合、その多くが水中の生態系を思い浮かべるだろう。ところが、実際には野鳥類(水鳥やそれ以外の鳥も含む)、霞ヶ浦湖畔や周辺地区に生える樹木や植物類、水生植物、水生微生物、魚類、そして地域住民も霞ヶ浦の生態系という枠組みに入れなければ意味がない。
 今回は水中、あるいは水辺の生態系を中心に意見を出していたパネラーが目立った。同会の座長(進行役)を務めた前田修さん(富士常葉大学教授・湖沼生態学)も「『生態系』はテーマとして議題が大きすぎる」と述べていた。本来であれば、桜川村環境保全協会会長・桜川村村長の飯田稔さんが提出した意見書(「水辺の植物生態系の役割と保護」)のような内容も、もっと突っ込んで語られるべきだろう。
 テーマが大きすぎて、意見がまとまらない歯痒さもある。たとえば、パネラーの1人、濱田文男さん(湖岸住民の会)は「意味をなしていない粗朶消波堤が多すぎる」と述べたが、実際はこのテーマ1つだけでも数時間の議論となるはずだ。
 今回に関していえば、出席した人のほとんどは水中の生態系、特に魚類の生態系に関心があるようだった。それであれば、「霞ヶ浦の魚類相」に的を絞った意見交換会が開催されるべきだといえるだろう。
 
 吉田幸二さんも意見書を提出したが、今回は自らがパネラーとして意見を語ることはなかった。後日そのわけを聞いてみると、当日は諸事情のため会に出席できなくなる可能性があり、主催側にその旨を伝えていた。実際には吉田さんも都合がつき、当日は一般傍観者席で意見交換会の進行を見届けていたが、意見書は吉田さんに代わり、国交省霞ヶ浦河川事務所調査課長の田中克直さんが読み上げた。
 吉田さんは「釣り人が考える霞ヶ浦の生態系」で、「(外来魚の駆除より)まずすべきことは、霞ヶ浦の水質浄化を考えること」と主張する。また「化学物質ゴミの除去、清掃活動こそが流域住民の至上の命題」とも記している。
 吉田さんは、私たちが何らかのかたちで接し、利用している霞ヶ浦にゴミが散乱しているのを見て、何も思いませんか、と問いかけているのだ。バスアングラーなら今さら説明しなくともご存知だろうが、吉田さんはW.B.S.を通じ、霞ヶ浦や霞ヶ浦の流入河川で清掃活動を行ってきた。今やこの活動は全国各地に飛び火しており、土浦市などでは一般住民の方々にも知られはじめている。
 
 その他、資料提出者の意見の中から興味あるものを2つ挙げておこう。
 1つめは、腰塚昭温さんが語った「霞ヶ浦における砂利等の採取の規制」で、湖岸の浸食と砂利取りに着眼している。湖岸に隣接したエリアで浚渫を行なっているため、湖岸植生に影響を与えていると述べた。現に、近年になって倒れてしまったヤナギの木などはこの影響が大きいと指摘している。
 これに関する意見として同じくパネラーの沼澤篤さん(社団法人霞ヶ浦市民協会主任研究員)は、「昭和47年から採掘された砂利の総量(1400万G)を霞ヶ浦の面積で割ると、単純計算で6〜7cmは霞ヶ浦の水深が深くなっている」と語った。
 
 もう1つの意見は、小貫勉さん(霞ヶ浦漁業協同組合連合会総括主任)の「霞ヶ浦生態系の破壊魚アメリカナマズを駆除!」である。提出資料の書き出しが「我々漁業者にとって今一番の悩みはアメリカナマズの存在であります」となっている。近年、アメリカナマズの影響はライギョやバスの比ではないという。国土交通省のデータによると、アメリカナマズの個体数はここ数年間で急増している。一方で、これまで霞ヶ浦で盛んに駆除されていたバスは「年々漁獲が減り、現在では数kgも集まらない状況となっている」と小貫さんは言う。
 小貫さんは意見書の中で「我々漁業者が望んでいるのはわかさぎ・しらうお・こい・ふな・うなぎ等の魚類と、えび・いさざあみ・貝類等の水産動物がバランスよく共存する在来種中心の生態系」と書いている。
 会場からの質問で「在来種で生計を立てたいとのことだが、アメリカナマズの価値が水産物として高まれば、外来種であっても、それを獲って商売をするのか」と問われると、「時と場合によりその可能性もある」と返答した。事実、アメリカナマズはアメリカ本国ではポピュラーな食用魚であるため、食用として流通する可能性もゼロではない。
 この言葉は、売り物になるのであれば、バスであろうとナマズであろうと、漁業の対象として成り立つ可能性があることを示している
。霞ヶ浦ではバスは「駆除」という名目で捕獲されたが、現在の琵琶湖のように処分するのではなく、生魚として河口湖などへ販売していた経緯もある。もっとも、現在では流通させるほどバスはいないようだが……。いずれにせよ、淡水化や護岸工事によって霞ヶ浦の生態系が大きく変わってしまったことは事実だ。たとえ外来魚が駆除されたとしても、それだけでかつてのような漁獲が望めるわけではないだろう。
  また、アメリカナマズの問題は他魚の食害だけでなく、鋭いトゲにもあるようだ。このトゲによって網に引っ掛かってしまうために外すのが大変で、さらに誤ってこのトゲが手などに刺さり、病院に通った経験のある方もいるそうだ。このような「現場の意見」は、なかなか私たちに伝わりにくい。今後も小貫さんをはじめとした職漁者の方々の意見は大いに取り上げるべきだろう。
 
 第4回霞ヶ浦意見交換会は「生態系」について話し合われたが、テーマが大きすぎた観は否めない。議会の展開に欠けた印象も強い。分化されたテーマでもう1度議論されるべきだろう。
 また、残念ながらバスアングラーの出席が少なかったようで、駐車場にもバスアングラーご用達のSUVやワゴンが少なかった。逆に、セダンタイプや軽トラックが多く、地元ナンバーが占めていた気がする。出席者の年齢層も意外と高かった
ようだ。
 霞ヶ浦は地元住民の水源であると同時に、我々バスアングラーにとってもかけがえのないフィールドである。ただ釣りだけに興味があるのも理解できるが、霞ヶ浦意見交換会の意義は大きい。
 たとえば琵琶湖では、r釣り人や地元の観光業など多方面からの意見を聞く場もなく行政の判断で条例が可決された。しかし霞ヶ浦では、その話し合う場所を国土交通省が提供してくれているのだ。このような公の場で、バスアングラーは自分たちの主張をすべきである。たとえ意見を主張しなくとも、この場に出席して
さまざまな人々の意見を理解することも重要なのではないだろうか。
 霞ヶ浦意見交換会の内容は難しい。中途半端な質問を出そうものなら「もう少し勉強してから質問してください」「話の焦点がまとまってから、質問しなさい」などと言われることもある。これは真剣な話し合いの場に仮説や感情論を持ち込むのではなく、データや科学的分析をもとに会を進行するという、もっともフェアな姿勢でもある。
 
 次回開催は7月の予定で、テーマは「水質」。これもバスアングラーにとって必聴の意見交換会になるだろう。なお、同会には無料で参加できる。次回はバスアングラーの参加がより増えることを期待したい。詳しい開催日程や第3回「水位」で配布された資料などは、国土交通省関東地方整備局霞ヶ浦河川事務所サイトを参照してほしい(今回のもようも近日中にアップされる予定)。