basswave:そもそも、バス釣りにのめり込んだきっかけはなんだったんですか?いつごろはじめたんですか?
小東和裕:小学5年生のときに、何年か前の台風で周囲500mぐらいの水溜りが近所にできてたんです。そこでバスが釣れるから一緒に行こうと友達に誘われたのが最初ですね。ミミズでエサ釣りして、初めての釣行で40cmアップが釣れて、それから毎日学校が終わってから釣りしに行きました。それでいつの間にか、だんだんエサからルアーにチェンジしていった感じです。

basswave:トーナメントはいつから出場し出したんですか?

小東:高校に入ってからJBTAの琵琶湖でのジュニア大会に参戦して、トーナメントにのめり込んでいきました。できるだけ早くプロになりたかったので、高校の成績は2番で卒業したんですけど、大学には行かず、就職したと同時にプロトーナメントにエントリーしはじめました。

basswave:ジュニア時代にはいい成績を残していたんですよね。

小東:高校1年のとき初めて出たジュニアの琵琶湖の大会で1位、高校3年のときにはジュニアの生野銀山湖の大会で2位、2位、1位、5位で年間1位になりました。ジュニアクラシックで琵琶湖1位、河口湖3位で総合優勝って感じです。JBプロになってからはなかなか成績がよくなりませんでしたけど、「この世界で食っていく」と決めて会社を辞めたとたんに4位、それから3位、琵琶湖の大会だけならかなり上位に入ってました。情けないことに、他の湖は全然ダメでしたけど。それからJBのトーナメントをやめて友達と一緒に琵琶湖でトーナメントをやりはじめたら、その1戦めでスピナーベイト・オンリーで5尾12kgが釣れたんです。その当時では破格のブッチ切りウエイトで優勝でした。その後も1回優勝して、平均的な高ウエイトも出て、1尾の平均が1650gになって、年間優勝もしました。

basswave:ということは、琵琶湖がホームレイクと言っていいですよね。
小東:デカい湖にデカいバス、そしてよく動くバス、何もかも日本イチですからね。

basswave:小東さんといえば、ダブルエッジの開発者として有名ですが、あのスピナーベイトも琵琶湖を攻略するために開発されたのですか?
小東:琵琶湖で水深があって水がキレイなエリアの漁礁を攻めているとき、何をやっても釣れないのにメタルジグをシャクるとたまに釣れる。でも、すぐに漁礁に潜られ切られるので、「これに勝るものはないか」と考えたんです。それでスピナーベイトをフォールするとデカいのが釣れたので、この後さまざまな縦ストラクチャーで試して、縦にスムーズに落とせるスピナーベイトの有効性を知って開発を進めていきました。

basswave:ダブルエッジには、「モーターベクトル理論」が入っているんですよね。ご説明いただけますか?
小東:いいですよ。モーターが動くときには電流と力、そしてそのとき“電磁力”で力方向に位相差が起きる角度がsinΘ。これをグラフにしたのがモーターベクトル図で、このグラフに合わせスピナーベイトを乗せると、アンダーアームが電流、アッパーアームがモーターの力、サブアームがsinΘ角ずれるモーターの力となります。

basswave:私も理工系でしたが、すっかり忘れてました(苦笑)。
小東:私は高校時代電気科でモーターと発電機を専攻してたのと、初めて就職した会社でマイクロ波を整合するモーター調整器のプログラムを打っていたので、モーターベクトル図とは切っても切れない仲になってます。
basswave:いよいよ、海外(アメリカ)に向けてのシフトチェンジについて質問します。いつごろから、アメリカの大会に興味を持ちはじめたのですか?
小東:昔は全然アメリカなんて興味はなかった(笑)。バス釣りするヤツって、みんなどっかにアメリカかぶれしたとこがありますよね。そのかぶれた部分がドカーンと急に爆発して、急にアメリカに行きたくなったんです。

basswave:いままでに、数名の日本人アングラーがアメリカやカナダの大会に単発参戦、連続参戦を経験していますが、彼らを見ていて感じることはありましたか?「俺でもイケるかな?」と感じていた部分もありますか?
小東:釣りに関してはバスはバスだから不安はなかったけど、英語がまったくしゃべれなかったので不安でした。先にアメリカのトーナメントに出てる人たちも、よく言葉の壁をクリアできたものだと思いますね。

basswave:アメリカは日本と異なって、バス釣りに関しては多くの団体があります。そのなかでもエバースタート、しかもウェスタン・リージョンを選択した理由はなんでしょうか?
小東:最終目的は「FLWにボーターとしてエントリーしたい」というのがあって、そのためにその下位リーグのエバースタートに行ってみようかと。西海岸は比較的日本から近いから、ウェスタンにエントリーしたんです。

basswave:いままではボーターで参戦するアングラーが多かったわけですが、小東さんはノンボーターとして(アマチュア選手)として、参戦を決めました。この部分に「なんでボーターじゃないの?」と思われる人がいると思います。
小東:これは、お金の問題ですよ。自分の手元に入ってくるだけのお金では、アメリカで車とボートを買って、おまけに転戦する費用なんてありませんでしたから。目立たない面からでもコツコツとアメリカでの実績を上げて、上への階段を上がって行く方法論の1つです。

basswave:ぶっちゃけた話、エバースタートに参戦するにあたって、おおざっぱに計算してどれくらいお金がかかるものなのでしょうか?

小東:エントリー費も込みで、1戦あたり最大22万円ぐらいまでかな。宿は出来るだけ安いのを現地で値切って、食事もチップのいるレストランでは絶対に食べない。ただし個人自営だから、渡米中は収入が賞金しかない。1戦での損失が35万円以上になってます(苦笑)。だけど、それ以上に得るものも多いのも確かでした。

basswave:質問が前後しますが、エバースタート参戦以前にアメリカでの大会参戦、または釣行経験はあったんでしょうか?
小東:アメリカへの釣行は一度もありませんでした。いきなり一人で参戦したんで、身体に異常をきたすほど不安でした。

basswave:日本を出ることを最初に誰に話しましたか?

小東:誰に最初に話したかなぁ。覚えていません。予定も立てないうちに「俺はアメリカに行くぞー」と喋りまくった。嘘つきと思われたくない性格だから、実行するしか仕方がない状況を自分で作った感じです。
basswave:それでは、2003年度シーズンの初戦からお聞きします。第1戦は1月29日にレイク・プレザントで開催されました。この大会では61位でフィニッシュしました。日本ではあまり知られていないレイクですよね。
小東:朝は冬、昼は夏、季節感がおかしい湖でした。バスは極端にバイトが小さくて、フッキングミスに悩まされましたね。頭の中が真っ白でのスタートだったけど、とりあえず感動しました。

basswave:ノンボーター選手は、どうやってプラをするんですか?

小東:スロープや宿で一緒にプラをしてもらえないかと声をかけていきました。先約がないかぎり、ほとんど1、2人声をかけるとパートナーは見つかりましたね。日本でもし反対に外国の人が同じことをすればと考えると、アメリカン・アングラーはとても気さくでイイ人が多いように思います。
basswave:第2戦(3月5日)のレイク・ミード戦では自己最高位の14位に入りました。手応えはあったのでしょうか?
小東:プラクティスのときはディープウォーターパターンで圧倒的にパートナーより釣れましたけど、本チャンではオールシャローエリア行って、ペアともども全然釣れなかったんです。2日連続昼過ぎに風が吹いて、その瞬間にスピナーベイトで40cmアップをキャッチして、琵琶湖の春の朝の冷え込んだときとまったく同じ感覚でした。

basswave:第3戦(クリア・レイク:4月23日)、第4戦(デルタ:5月28日)では83位、95位と不本意な成績に終わりました。確かにノンボーターにエリアの選定権はありませんが、非常に難しい大会であったことが伺えます。
小東:両戦ともオールバンク撃ちで、特にクリアレイクでは前(ボーター)が上手すぎで太刀打ちできませんでした。デルタでは1日めのパートナーが最初のエリアでギブアップして、「お前がいいと思うとこに行こう」と言ってきたので、水が巻いてるところを指差して移動したら、先にキャストするパートナーばかりが釣れてしまった。そのパートナーにチャンピオンシップで会ったら、「お前のおかげでチャンピオンシップに出られたよ」ってお礼を言われてしまいました(笑)。

basswave:先ほどスピナーベイトの話がでましたが、アメリカでダブルエッジをお使いになってどうでしたか?
小東:アメリカではいいシチュエーションがなかったから、出番は少なかったんですけど、レイクミード戦のプラクティスのパートナーにあげたら、トーナメントの一投めにキャストしたら、フォール中にキッカーが釣れたらしいです。

basswave:第2戦から最終戦までは1ヶ月おきに大会がありましたが、肉体的にも精神的にも、経済的にも一番ピークにきていたと思います。小東さんは、毎大会ごとに帰国されているのですか?

小東:仕事をしないと生活できない身分なので、毎回帰国してました。金銭的にも苦しくなってきて、所有していたボートも売ってしまいました(苦笑)。トーナメントには生活がかかっているから、毎回死にもの狂いです。

basswave:初参戦にしてチャンピオンシップにも出場しましたが、シリーズ戦からはおよそ半年後の大会になりました。モチベーションを保つのが難しかったのではないでしょうか?
小東:出国前は体調が悪かったのですが、湖に着いたらもう勝つことしか考えていませんでした。ひたすらハートハングリーでした。

basswave:チャンピオンシップが開催されたオールド・ヒッコリーレイクは、西海岸のレイクと違いましたか?
小東:とりあえずレイダウンだらけで、底には泥が堆積していて……。でも、バスの習性は同じでしたよ。

basswave:チャンピオンシップの印象は?
小東:警察に先導されてバスボートの列ができて、すごくショーアップされてるし、バストーナメントが認められた国だと感じました。
basswave:来年はFLWツアーにノンボーターとして参戦されるそうですが、抱負はありますか?
小東:私はトーナメントを楽しむためにエントリーしているワケでなくて、生活するためにトーナメントに出場しているので、賞金やスポンサーを得なければならないんです。最終的には、表現はよくないけど、お金を得なければならない。賞金はどのトーナメントに出ようがゲットできますけど、スポンサーは下位の大会(エバースタート)よりも、トップカテゴリーの方がつきやすいし。メディアの注目度も違ってきますよね。出場するには大金もかかるので、今現在は昼も夜も働いてます。この苦労を乗り切って出場するからには、絶対に頂点を狙っていきます。

basswave:将来的にはボーターでエントリーされることを望んでいると思いますが、ノンボーターの選手がボート会社の目にとまって、契約できることもあるんですよね?
小東:アメリカは実力最優先の国だから、実力が認められればボーターであろうとノンボーターであろうとスポンサーからオファーがあるでしょうね。頑張り次第だと思います。

basswave:日本にはまだまだ「アメリカの大会に挑戦してみたい」と考えているアングラーが大勢いると思いますが、最後に彼らに伝えたいことはありますか?

小東:アメリカ人は、日本人がアメリカのトーナメントに出場することにはすごくウェルカムです。でも、今エントリーしている人たちには悪口に聞こえるかもしれませんけど、下からステップアップせずにいきなりジャンプアップすることについては、全然いいとは思っていないみたいです。その制度に対してブーイングも多いようで、来年からはFLWの日本人枠も中止されるというウワサも聞きました。アメリカのトップカテゴリーを目指すアングラーのほとんどが生活をかけて下から上へ上がろうとしています。いきなり上に出場して、日本のメディアが扱ってくれても、アメリカ人は誰も認めてくれない。個人的な意見ですが、出場するならアメリカ人と同じスタートラインから出場してほしいですね。それから当たり前のマナーとして最低限の英会話とボートの操船、レフトハンドルの車でのボートの上げ下ろしぐらいは、パートナーに迷惑をかけないためにも、練習してから行っていただきたいですね。


FLWツアーのノンボーターには、古沢勝利さんが2年前からエントリーしている。古沢さんはそれなりの成績も残し、ノンボーターながら上位入賞を果たし、FLWチャンピオンシップへもクオリファイされている。小東さんは、このインタビューの中で「お金もかかるが、それ以上に得るものも多い」と語っていたが、トップカテゴリーのツアーに参戦すれば、さらに得るものが増えるだろう。そして小東さんが持つポテンシャルが120%開花する可能性もある。エバースタートからスタートし、ツアーの頂点に立った日本人アングラーはまだいない。小東さんには、そんな開拓者的な存在になってもらいたいものだ。
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