バスフィッシングと出会って20年あまり。
すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、
これまでに出会ったさまざまなことを
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TEXT by Jun Sugawara

BEAT 28  シナイモツゴのハナシ(2005/10/7)

TOP NEWSでもお伝えしているが、
9月25日付のYahoo! JAPAN NEWS(河北新報)に、シナイモツゴという魚に関する記事が掲載された。

(以下、引用)
絶滅危惧種のシナイモツゴ JR古川駅が「里親」に
 国の絶滅危惧(きぐ)種に指定されている淡水魚シナイモツゴが、JR古川駅2階コンコースで飼育、展示されている。保護・繁殖に取り組む宮城県鹿島台町のNPO法人「シナイモツゴ郷(さと)の会」が募った「稚魚の里親」に、同駅が名乗りを上げて実現した。乗客らが興味深げに水槽をのぞいている。
 展示されているシナイモツゴは、「卵の里親」になった鹿島台小の4年生18人が、6月から学校の池で人工繁殖した。体長3―5センチ。子どもたちから預かった稚魚を会のメンバーが駅まで慎重に運び、1日約8000人の乗降客が通るコンコースの水槽に移した。
 魚と一緒に子どもたちが書いた作文も駅に渡した。「大事に育ててください」「いろんな人に見てほしい」といった内容で、受け取った斎藤厳営業総括助役は「大切に育てる。多くの人にシナイモツゴのことを知ってもらい、保護の輪を広げたい」と話していた。
 1916(大正5)年に鹿島台町の品井沼で発見されたシナイモツゴは、ブラックバスによる食害などで激減した。郷の会は、人工繁殖した卵や稚魚を公募の里親に飼育してもらう試みを今春から始め、個体数の増加と成育域拡大に努めている。
[シナイモツゴ]コイ科の淡水魚で日本固有種。水圧や水流を感じる側線部が不完全なのが特長。関東以北に生息していたが、戦後急速に数を減らした。1999年には環境省の「日本の絶滅のおそれのある野生生物」(レッドデータブック)の絶滅危惧種に指定された。(河北新報)
(以上、引用終わり)

この記事でちょっと気になったのが「1916(大正5)年に鹿島台町の品井沼で発見されたシナイモツゴは、ブラックバスによる食害などで激減した」という記述だ。
魚類についての知識が乏しい人がここだけを読むと、
あたかも品井沼のシナイモツゴがブラックバスのせいで激減したように誤解してしまうかもしれない。
その名で分かるように、シナイモツゴの「シナイ」とは、本種の基産地である品井沼に由来している。
ところが、かつてこの品井沼が存在した場所には現在、広大な水田が広がっているだけだ。
品井沼のシナイモツゴはブラックバスの食害によって激減したわけではなく、
1950年に完了した干拓事業によって、沼もろともその姿を消してしまったのである。
それでは、品井沼以外の生息地に関してはどうなのだろうか。
2003年に財団法人自然環境研究センターから発行された「改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物-
レッドデータブック-汽水・淡水魚類 環境省編」によると、下記のような記述がある。

(以下引用)
●摘要
 Pseudorasbora pumilaの模式亜種で、中部地方以北の本州に分布する日本固有亜種。平野部の浅い池沼に生息し、灌漑防備保安林に囲まれ、護岸されていないような自然性の高い環境を好む。生息地の大部分は同属のモツゴ(P.parva)に置換されている。分布域は縮小を続け、関東地方ではすでに絶滅している。本亜種の存続をはかるためにはモツゴの侵入を阻むことが不可欠である。
(以上、引用終わり)

モツゴといえば、首都圏では「クチボソ」と呼ばれ、私も子供のころは公園の池でよく釣ったものだ。
もちろん、このモツゴもれっきとした日本の在来種である。
なぜ、シナイモツゴの存続のためにモツゴの侵入を阻む必要があるのだろうか……。
ここはひとつ、詳しい方に話を聞くべきだろうと思い、内山りゅうさんに連絡をとってみた。
ネイチャーフォトグラファーである内山さんは東海大学海洋学部水産学科を卒業しており、
シナイモツゴの模式亜種であるウシモツゴの形態と生態に関する論文を書いている。
ウシモツゴはもちろん、シナイモツゴに関しても東北地方の各地で調査を行なっており、
多くの出版物でモツゴの仲間に関する解説を執筆している人物だ。
……などと書くとおカタい人物のようだが、実際の内山さんは陽気で気さくな方である。
私は内山さんと一緒にフロリダへ取材に行ったことがあり、
一緒にバス釣りをしたり爬虫類のイベントに行ったりカエルを捕まえたりした経験がある。
10月2日にTBS系列で放映された「情熱大陸」に出演していたので、ご覧になった方も多いだろう。
早速事情を話し、シナイモツゴについての話を伺ってみた。
「限られた地域ではなく日本全体として見るなら、シナイモツゴが激減したもっとも大きな要因はバスじゃないと思う。学生のころ、かつて品井沼があった地域に残っている溜め池を調査してるんだけど、モツゴばかりでシナイモツゴはほとんど見つからなかった。なにより当時、あの周辺にバスはいなかったからね」。
この話は、レッドデータブックの記載と一致している。
では、そもそもなぜモツゴがシナイモツゴの生息地に侵入したのだろうか。
「モツゴは食用にされることはほとんどない。だから、食用にモツゴを移植したというわけじゃなくて、他の魚に混じって入っちゃったんだよね。昔は田んぼの灌漑用の池にコイを放して、成長したころに池を干してそのコイを食べたり売ったりしてた。おそらく、このとき放流したコイの稚魚にモツゴが混じってたんだろうね。ほかにも、釣りの対象魚……たとえばヘラブナやアユなんかにも混じってたケースもあったんじゃないかな。モツゴとシナイモツゴは交雑するんだけど、この雑種はほとんど生殖能力をもたないといわれてる。さらに、モツゴはシナイモツゴより産卵期が長くて、稚魚期の成長も速い。つまり、シナイモツゴは種間競争でモツゴに負けちゃったんだよ。その結果、シナイモツゴの生息地の多くがモツゴに置き換わってしまった。シナイモツゴが激減した最大の要因は、品井沼に代表されるような生息環境の消失や環境悪化、そしてモツゴの移植だと思うよ」。
残念ながら、冒頭で紹介した記事はこの件に関して一切触れていない。
日本の在来生物を保護することは大切だと思うし、
その必要性が高い種のひとつとしてシナイモツゴが挙げられることは間違いない。
宮城県古川市は父の出身地で、私自身も幼少のころから幾度となく訪れているだけに思い入れも強く、
それだけに、シナイモツゴ激減の理由を「ブラックバスの食害など」で済ましてほしくないのだ。
その激減の理由から分かるように、これはバスを駆除すれば解決するような問題ではない。
生息環境の保護はもちろん、外来種ということで論じるのであれば、国内移植種であるモツゴ、
さらに魚食性の強いナマズなども視野に入れなくては片手落ちだといえるだろう。
ただし、生息地が少なくなってしまった現在において、
ブラックバスがシナイモツゴにとって恐るべき存在であることもまた事実だと内山さんは言う。
「シナイモツゴは小さな溜め池のように流れのない止水域を好む魚で、遊泳力は高くない。それだけに、やっとのことで生き残ったシナイモツゴが、逃げ場のない閉鎖的な水域でバスにとどめを刺される可能性も高いんだ。僕もバス釣りはやったことあるし、楽しいのも分かってるつもり。だけど、これ以上バスの生息域を広げることには反対だし、法律でも禁止されている以上ルールはしっかりと守ってほしい」。
内山さんが言うように、シナイモツゴの減少の要因のひとつにバスの補食はあると思うし、
モツゴ同様、移植種が在来の生態系や生物相になんらかの影響を与える
ことは事実だ。
しかし、モツゴとシナイモツゴの関係でも分かるように、
「食う、食われる」という図式だけが種の減少のすべてではないこともまた事実なのだ。
最後に、内山さんはこんなメッセージを寄せてくれた。
「ウシモツゴやゼニタナゴなど、日本にはシナイモツゴのように絶滅の危機に瀕している淡水魚がほかにもたくさんいる。そうなってしまった要因がすべてバスの食害とは言わないけど、現状としてバスの影響を無視できないケースが多いことも事実なんだよ。そういうこともバスアングラーの方々にも知ってほしいと思うし、こういった淡水魚の保護に関心をもってくれるバスアングラーが増えてくれると嬉しいよね」。
basswaveでは日本に生息する淡水魚のミニ図鑑を掲載している。
「ベイトフィッシュ」などとひと括りにせず、機会があったらバス以外の生物にも目を向けてほしい。
そこには、バスフィッシングのヒントも隠れているはずだ。

食用にされず水産上の重要種ではないことから、近年になるまでその減少が大きく取り上げられたことのないシナイモツゴ。このような在来種がいることを知っておくことも必要だと思う。
写真提供=ピーシーズ