バスフィッシングと出会って20年あまり。
すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、
これまでに出会ったさまざまなことを
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TEXT by Jun Sugawara

BEAT 27  西の天才、メジャーを制す(2005/5/7)

今シーズンのBASS CITGOバスマスターツアーも、
テーブルロック・レイクで開催された第6戦をもって幕を閉じた。
大森貴洋が初戦で優勝という最高のスタートを切ったことで、
私を含めた多くの人々は日本人初のBASSアングラーオブザイヤー誕生を期待したことだろう。
残念ながら夢は現実にならなかったが、将来の可能性が消えてしまったわけではない。
クラシック制覇という大きな目標を達成した大森には、
ぜひ来シーズン以降、もうひとつの大きな目標を達成してほしいものだ。
さて、最終戦までもつれにもつれた今シーズンのアングラーオブザイヤー争い。
その頂点に立ったのは、アーロン・マーテンスだった。
マーテンスに関しては雑誌Basserでも何度か記事にしているが、
彼は私がこれまで出会ったアングラーの中でも、“天才肌”と呼ぶに相応しい人物の一人だ。
やはり“天才”と呼ばれるケビン・バンダムは24歳でアングラーオブザイヤーを獲得しているが、
1972年生まれのマーテンスは現在32歳。
年齢だけを見れば遅咲きとも思えるのだが、
これには彼が生まれ育ったカリフォルニア州という場所が深く関係している。
BASSという団体そのものがアラバマ州で誕生したように、
アメリカ合衆国におけるバスフィッシングの本場といえば、南東部を中心とした北米東部地域だ。
これは、このエリアが単にバスフィッシングが盛んということではなく、
ラージマウスバスという魚がもともと五大湖南部、ミシシッピ河流域以東に分布していたためだ。
つまり、マーテンスが生まれたカリフォルニア州において、日本と同様バスは移植種なのである。
当然のことながらバスフィッシングの歴史は東部より浅く、
なおかつ大平洋に面しているため海釣りの人気も高い。
バスフィッシングの本場アメリカの一部でありながら、
カリフォルニア州を含めた西海岸エリアはバスフィッシングの後進地区ともいえるのだ。
マーテンスは母キャロルがバスフィッシングに理解があったこともあって、
高校生のころからトーナメントに出場している。
しかし、これらはすべてWON BASSやA.B.A.、West Coast BASSなど西海岸のローカル団体であり、
若いころのマーテンスにとってBASSは憧れの対象でしかなかった。
なにしろ、BASSは1990年にアリゾナ州レイク・パウエルでインビテーショナル戦を開催してから、
1997年にカリフォルニア州カリフォルニア・デルタで開催されたウエスタンインビテーショナルまで、
一切のメジャートーナメントを西海岸で開催していない。
この期間は、ちょうどマーテンスが18歳から23歳のころ。
つまり、バンダムがBASSでめきめきと頭角を現わしていった時期にあたるというわけだ。
そのような事情もあり、当時のマーテンスにとってBASSはあまりに遠い存在だった。
彼が住んでいたロサンゼルス近郊から、BASSが本拠地を構えていたアラバマまでは約3200km。
私たち日本人はどうしてもアメリカの広さがピンと来ないのだが、
3200kmといえば、東京からフィリピンの首都マニラまでの距離に匹敵する。
トーナメントのエントリーフィーや宿泊、食事などの諸費用を考えれば、
実績や資金に乏しかった当時のマーテンスがBASSに挑戦できるはずもなかったのだ。
私はたびたび「西海岸びいきですね〜」などと言われるのだが、
そんな事情から、日本人なみに苦労している彼らについ親近感を抱いてしまうのだ。
マーテンスを含めた西海岸のアングラーたちもまた、日本人アングラーには親近感を抱いている。
そんなマーテンスにとっての転機は、1997年からスタートしたBASSウエスタンインビテーショナルだった。
ようやく西海岸へとBASSが戻ってきたこのシーズンこそ振るわなかったものの、
1998-1999シーズンにディーン・ロハスに次ぐ年間2位を獲得。
そして1999年8月に、ようやくメジャーリーグとも呼べるTOP 150にデビューを果たしたのだ。
2000年2月のBASS TOP 150で初の5位入賞を果たしたマーテンスの勢いは止まらず、
1999-2000シーズンのウエスタンインビテーショナルでは年間優勝。
2001年にはFLW TOURで年間3位という成績を残している。
昨年のクラシックでは大森貴洋の後塵を拝し2位となったが、その後のU.S.OPENで初優勝。
その勢いそのままにアングラーオブザイヤーを獲得したのだから、まさに快進撃といえる活躍だ。
さて、彼のことを“天才肌”と書いたが、これはトーナメントの成績だけが理由ではない。
私はさまざまな釣り場でマーテンスと同船したことがあるが、
彼は西海岸のアングラーに多く見られるオールラウンダータイプのアングラーだ。
どちらかといえばライトリグの釣りを得意としてはいるが、
サイトフィッシングやトップウォーター、フリッピングと、あらゆるテクニックを器用にこなす。
そしてなにより、彼は理詰めというより自らのひらめきに頼って魚を捜していく印象が強い。
湖上での彼にはバンダムのような正確無比なキャスティングテクニックもなければ、
「これで釣れなければバスはいない」とばかりに、特定の釣り方に固執することもない。
天候やカレントのわずかな変化、ベイトフィッシュの動き、水鳥にまで注意を向ける彼の仕種は、
まさに森羅万象を身体で感じながらバスを捜しているようにさえ見えるのだ。
そんな彼のスタイルと強さは、西海岸出身のアングラーたちにも知られている。
「アイツは本当の天才だよ。いつかBASSのアングラーオブザイヤーを取ると思う」。
かつて私にこう語ったのは、やはりカリフォルニア出身のスキート・リースだ。
マーテンスのアングラーオブザイヤー獲得を知ったとき、
負けん気の強さで知られるリースが真剣な表情でこう話したことをつい思い出してしまった。
もっとも、普段のマーテンスは明るく陽気で、一児のよきパパでもある。
BASSというメジャーリーグにおいては遅咲きの天才、アーロン・マーテンス。
名実共に全米のトッププロへと登り詰めた彼は、
これからもその“天才ぶり”を見せつけてくれることだろう。
Congratulations, Aaron !

 

右は夫人のレスリーさん、まん中は愛娘のメイちゃん。写真は昨年9月に開催されたU.S.OPENのときのもので、この大会でマーテンスは優勝。今、まさに乗りに乗っているアングラーだといえるだろう