バスフィッシングと出会って20年あまり。
すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、
これまでに出会ったさまざまなことを
つれづれ〜っと書いていきます。
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TEXT by Jun Sugawara

BEAT 24  かける想い(2004/12/23)

深江真一がFLW TOURでアングラーオブザイヤーを獲得し、
大森貴洋がBASSバスマスタークラシックを制覇した2004年。
2004年は、私たち日本人アングラーにとって忘れることのできない1年となった。
大森が凱旋帰国を果たし、深江がケロッグ・コーンフレークの箱に登場。
まだまだ興奮覚めやらぬといった感があるものの、
年が明ければアメリカのトーナメントシーンの幕開けは間近だ。
1月19日からはフロリダ州レイク・オキチョビーでFLW TOURがスタート、
BASSも1月27日にフロリダ州レイク・トホペカリガでキックオフを迎える。
すでに清水盛三は12月11日に日本を離れ、深江も17日に渡米。
コンテンダーたちにとって、新しいシーズンはもう始っているといえるだろう。
つり人社から発行されている“バス釣りUSA”という本の編集に携わったこともあり、
私は10月に深江からさまざまな話を聞くことができた。
なにしろ、ルーキーイヤーでアングラーオブザイヤーを獲得という快挙を達成したのだ。
さぞや喜びと充実感に満ちあふれているだろうと思っていたが、
意外にも本人は冷静で、喜びに浸っているようには見えなかった。
「正直なところ……取材を受ける時間があったら、アメリカに行ってプリプラをしたいです」。
スポンサーの看板を掲げているプロアングラーにとって、
プロモーション活動は重要な仕事のひとつだといえる。
特に日本人である深江の場合は、日本でのプロモーション活動は不可欠なものだ。
しかし、日本でプロモーションを行なうということは、
すなわちアメリカでの練習時間を削ることになってしまう。
琵琶湖の湖畔で出会った深江は、人知れずそんなジレンマを抱えていたのだ。
深江はまた、現実的な問題にも直面していた。
昨年、深江がFLW TOURで獲得した賞金額は10万3800ドル。
レンジャーボートに乗るプロたちで競われるレンジャーカップの優勝賞金7万5000ドルと合わせても、
その金額は17万8800ドルである。
1ドルを105円で計算したとすると、1877万4000円。
年収1800万円といえば一般的な社会人のサラリーとしては悪くない数字に思えるが、
他のスポーツと比べてしまうと実に心細いと言わざるを得ない。
たとえば、今年のスポーツ界を賑わしたプロゴルファー宮里藍は、
プロ転向後初めてのシーズン参戦で年間2位に終わりながらも賞金獲得額1億円を突破した。
参考までに深江とほぼ同じ賞金獲得額を見てみると、国内女子プロゴルフの世界では26位前後。
2004年、アメリカでもっとも賞金を獲得したルーク・クラウセンの52万8125ドルをもってしても、
やっと4位に入ることができる程度なのだ。
ちなみにアメリカの女子プロゴルフの場合、1位のアニカ・ソレンスタムが254万ドルを超えている。
アメリカの男子プロゴルフやプロテニス界は……書くまでもないだろう。
ある日、大森が深江に「俺たちは道を誤った。ゴルフにしとけばよかった」と冗談を言ったらしいが、
本場アメリカといえどもプロアングラーの地位はまだまだ低いと言わざるを得ないのだ。
また、バスフィッシングの場合はトーナメントを転戦する経費も馬鹿にならない。
エントリーフィーに滞在費、移動経費やプラクティスのガソリン代……。
無駄使いを一切していないにも関わらず、深江はカードの請求額を見るたびに青くなったという。
琵琶湖での取材中に居合わせた庄司潤が「えらい賞金稼いだなぁ」とからかっていたが、
深江は「全然そんな気がしませんわ」と苦笑いを浮かべていた。
なにしろ、来シーズンの賞金などまったく保証されていない。
それどころか、まったく賞金を獲得できない可能性さえあるのがプロアングラーの世界なのだ。
深江の場合、頂点を極めたがゆえにそのシビアさを思い知らされたのだろう。
そんな思いがあったからこそ「取材を受ける時間があったら……」という言葉が出たのである。
それでも深江は「もう後には引けませんからね」と笑った。
深江はもちろん、他の日本人たちもアメリカのトーナメントにかける想いは半端ではない。
2005年も、そんな彼らの活躍から目が離せそうにない。

ご存じの方も多いだろうが、FLW TOURで2004年度アングラーオブザイヤーを獲得した深江真一は、朝食の定番ともいえるケロッグ・コーンフレークの箱を飾った。私はこの快挙を心から誇りに思う。ぜひ来年も本場で暴れてほしいものだ