バスフィッシングと出会って20年あまり。
すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、
これまでに出会ったさまざまなことを
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TEXT by Jun Sugawara

BEAT 23  二つの快挙(2004/8/5)

今年、2004年は私たち日本人のバスアングラーにとって忘れられない年になった。
まずは、深江真一さんのFLW TOURアングラーオブザイヤーだ。
すでにさまざまな雑誌で詳しく報じられているが、
アメリカの二大組織のひとつであるFLWで年間優勝を獲得したことは快挙としか言いようがない。
この快挙の源は、彼のトーナメントに対する熱意にあったように思う。
私は残念ながらアメリカでの深江さんを見る機会に恵まれていないのだが、
かつて、Basser誌の取材において彼の釣りを目の当たりにし、アメリカへの思いを聞いたことがある。
なにしろ、日本の頂点を極めた男だけに、釣りの腕はここで改めて書くまでもないだろう。
当時はアメリカへの本格的な参戦が決まっていたわけでもなく、
どちらかといえば「夢の話」というイメージで、アメリカのトーナメントを語っていた。
私は深江真一さんというアングラーについて偉そうに語るほど深い付き合いがあるわけではないが、
ひとつだけ彼について「すごいヤツだなぁ」と感じたことがある。
それは、彼の練習量だ。
このころ、私は毎月のように琵琶湖を訪れ、そのたびに異なるアングラーと湖上に出ていた。
そして、なんとほぼ毎回に近い確率でプラクティス中の深江さんを目撃していたのである。
「琵琶湖で深江を見るのは、もう風景ですね。ストラクチャーみたいなもんですわ」。
あるアングラーはこう言って笑ったが、それほど彼の練習量は群を抜いていたといえるだろう。
そんな彼がFLW TOURにシーズン参戦すると聞いたときは、とても嬉しく思った反面、
芳しい結果を残すには数年の期間が必要だろうと考えていた。
ところが、彼の活躍は嬉しい裏切りの連続だった。
初戦のオキチョビーで4位という好スタートを切った彼は、続くアチャファライヤ・ベイスンで11位。
オールドヒッコリーで71位に甘んじたものの、ビーバー・レイクのウォルマート・オープンで6位、
第5戦のケンタッキーでは5位。
ご存じのとおり最終戦を危なげなく24位で終えアングラーオブザイヤーを獲得してしまったのである。
ルーキーイヤーでのこの活躍は、1999-2000シーズンにBASSアングラーオブザイヤーを獲得した、
ティム・ホートン以来のインパクトだといえる。
この快挙は、アメリカでも変わることのなかった彼の豊富な練習量が結実したものだろう。
FLWのアングラーオブザイヤー獲得者は例年ケロッグのコーンフレークの箱を飾っているが、
深江さんの笑顔が印刷されたコーンフレークは発売されるのだろうか。
実現したら、ぜひポパイさんあたりで輸入販売してほしいものである。
そして、この快挙からわずか2ヵ月……。
深江さんのアングラーオブザイヤーの興奮が覚めやらぬうちに、もうひとつの快挙が達成された。
そう、大森貴洋さんのBASSバスマスター・クラシック制覇である。
彼がリュックサックとロッドケースを抱え、初めてBASSのトーナメントに参戦したのが1992年。
牛丼屋でのアルバイト、そして河口湖でのガイドで生計をたてていた彼のようすは、
当時隔月刊だったBasser 27号において「海を渡ったリュックサックの若武者」として紹介された。
『そしていつかは、向こうに移ってフルタイムのツアープロになるんです。
夢、いや目標です。僕の目標』。
こう語っていた大森さんだが、当時まったくの無名だった彼を笑う者も少なくはなかった。
この記事が世に出た直後、河口湖でのJBTAトーナメントを取材していたときのことだ。
岸につけていた大森さんのボートが波によって沖に流されてしまったのだが、
ボートを戻そうと走る彼の背中に向かって投げられた言葉を、私は忘れることができない。
「ほら、早く走れよ若武者くん」。
このとき罵声を浴びせた誰かさんは、彼の快挙を知ってどう思っただろうか。
とはいえ、当の大森さんはこういった周囲の声などまったく意に介していなかった。
なにより興味深いのは、この記事で彼が記していた「B.A.S.S.インビテーショナル参戦計画」である。
インビテーショナルというカテゴリーそのものはなくなってしまったが、
ここには驚くべき「計画」が記されていたのだ。
『14年目 34歳 2004年9月〜 11戦出場 クラシック優勝 7位』。
なんと大森さんは、今年のクラシック優勝を自ら予言していたのである。
「計画」の7位には届かなかったものの、今年の彼の年間順位は9位。
私は当時、彼が抱いていた目標を笑いこそしなかったものの、
まさか彼が本当にクラシック優勝を成し遂げることなどありえないと思っていた。
大森さんのクラシック制覇もまた、快挙という言葉以外に表現のしようがない。
そして、来年。
「計画」によれば、35歳の彼はアングラーオブザイヤーを獲得すると記されている。
『彼の計画を、笑ってしまうのはたやすい。
しかし、こんなことを本気で考えている男がいるというだけで爽快な気持ちになる』
当時のBasserは彼の「計画」をこう記しているが、
現在の大森さんにとって、来年のアングラーオブザイヤーは確固たる目標といえるだろう。
かつて「俺が生きてる間に日本人がクラシック優勝したら嬉しいねぇ」と話していたのは、
日本人として初めてBASSメガバックスに参戦した吉田幸二さんである。
それほど、今回の優勝は「歴史的な出来事」だったといえるだろう。
深江真一さん、そして大森貴洋さんという二人の日本人アングラーを、心から誇りに思いたい。
そして、来シーズンもまた私たちを驚かせてくれることを願っている。