バスフィッシングと出会って20年あまり。
すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、
これまでに出会ったさまざまなことを
つれづれ〜っと書いていきます。
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TEXT by Jun Sugawara

BEAT 20  2004年。釣り人が魚たちにできること(2004/1/18)

昨年末、“ファインディング・ニモ(C)Disney”を観てきた。
知る人ぞ知る“ディズニャー”の私ではあるが、
そんな私を上回る素早さでこの映画を観ていたのが、あの森文俊さんである。
もっとも、森さんが封切り翌日にこの映画を観た理由は“ディズニャー”だからではない。
なにしろ、アクアリウム業界でも活躍している森さんだ。
アメリカではこの映画のおかげで、業界の景気がズガーン((C)風太郎さん)と上がったというから、
業界人として観ないワケにはいかなかったのであろう。
森さんの感想を聞いて爆笑したのが、さらわれそうになっているニモを助けようとした父マーリンが、
水中カメラマンのフラッシュで目を眩まされてしまうシーンだ。
なにしろ、これまでさんざんフラッシュを使って魚を撮りまくってきた森さんである。
「オレはそんなに悪いコトをしてるのかぁぁぁあああ!」と、心の中で叫んだらしい。
かくいう私も、水中デジカメでスポーニング中のバスを接写したことがある。
フラッシュを浴びる機会などほとんどない魚にとって、強い光はとっても迷惑なハズだ。
もっとも、私たちバスアングラーはバスの口にハリを引っ掛けているのだから、
与えるダメージはカメラのフラッシュの比ではないだろう。
映画に釣り人は登場しなかったが、もし登場していたら私も森さんのことを笑えなかったに違いない。
さて、この映画ではニモを連れ去ったダイバーやアクアリスト、漁師が悪役として描かれている。
そして、現実問題としてニモのモデルとなったカクレクマノミが乱獲されているという新聞報道もあった。
実際、最近では多くのアクアリウムショップでカクレクマノミが売られている。
映画を観て『ニモを飼いたい!』と思った人は少なくないだろうし、
特に保護されているワケでもないクマノミは、かなりの数がペット用として捕獲されたことだろう。
そして、捕獲されたクマノミがニモのように海に帰ることは……現実にはありえない。
バス問題と同様、お決まりのように『生態系の破壊が……』などとメディアで報じられれば、
『生態系を破壊するアクアリウムなど、法律で禁止しろ!』という輩がでてくるかもしれない。
まぁ、たしかにアクアリウムのせいで犠牲になる魚たちは膨大な数になるはずだ。
犠牲になっている魚たちを可哀相だと思う気持ちも理解できる。
では、すべてのアクアリストたちがいたずらに魚を消耗しているだけなのかというと、
これはちょっと話が違ったりもするのだ。
先日、AQUA WAVEという雑誌の取材で、知る人ぞ知る東博司さんの「東熱帯魚研究所」にお邪魔した。
この東さんは膨大な種類のアクアリウム・フィッシュを水槽内で繁殖させ、
その繁殖に関する詳細なデータを記録していることで世界的に有名な方である。
1978年のブラジル移民70周年記念式典において、当時の皇太子殿下(現在の天皇陛下)に、
インパイクティス・ケリーという魚が寄贈された。
東さんはこの魚の繁殖を宮内庁から依頼され、見事成功したというエピソードをお持ちなのである。
詳しくはAQUA WAVE最新号を読んでほしいが、なにより驚かされるのは、東さんがいわゆる学者ではなく、
趣味を原点としたハイレベルのアクアリストであるということだ。
事実、一部のレベルの高いアクアリストたちは水槽内での繁殖に積極的に取り組んでおり、
こうして繁殖されたカクレクマノミが、少ないながらも市場に出回っている。
乱獲の要因として糾弾されているアクアリストも、
その一部の人々が多少なりとも乱獲防止の一翼を担っているということだ。
保護の対象外で水産上も重要とされない魚が我が国の公的機関でまともに研究されることは少ないため、
こういったアクアリストたちの貢献はけっして小さくないのが現状なのだ。
ほかにも、たとえば中国原産のアカヒレと呼ばれるコイ科の魚がいる。
鑑賞魚として世界的にもポピュラーな存在で、日本でもたいていのショップでその姿を見ることができる。
しかし、白雲山と呼ばれる原産地の川でその姿を見ることはできない。
開発によって環境が破壊されたことにより、自然下のアカヒレはすでに絶滅しているのだ。
映画では悪役として描かれているアクアリストだが、アクアリウムが存在したことによって、
“種の絶滅”から救われた魚がいることもまた事実なのである。
森さんはかつて『アクアリストに環境問題を語る資格なんてないよ』と笑っていたが、
映画の影響でカクレクマノミに興味をもち、実際に飼育してみた子供たちもいるはずだ。
そして、そんな中からカクレクマノミが暮らす環境を守ろうと考える子供たちも生まれてくるだろう。
さて、私たちの釣りはどうだろう。
釣りをしない人たちにとって、魚を釣るという行為そのものは動物虐待にほかならない。
魚や魚たちの環境を向上させるために、私たちは何をするべきなのか、そして何ができるのか……。
昨年スタートしたW.B.S.の「魚道設置推進運動」は、そんな思いが原点になっている。
2004年は『マナーを守る』とか『ゴミを捨てない』ということからさらに一歩踏み出して、
魚やフィールドに対して「何ができるのか」を考えたいと思う。

映画のモデルになったカクレクマノミは比較的飼育が容易で、環境さえ整えてあげ
れば水槽内で繁殖させることも可能だ。ただし、共生するイソギンチャクの長期飼
育には照明や給餌などを工夫する必要がある。カクレクマノミやイソギンチャクの
飼育法はPiscesの出版物をご参考に…… Photo by Naoto Tomizawa (Pisces)

●東熱帯魚研究所のウェブサイトはこちら。なお、 W.B.S.の魚道設置運動に関する詳細はWBS on LINEにて。