バスフィッシングと出会って20年あまり。
すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、
これまでに出会ったさまざまなことを
つれづれ〜っと書いていきます。
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TEXT by Jun Sugawara

BEAT 19  デルタオヤジとの再会(2003/11/19)

先日、カリフォルニアで久しぶりにディー・トーマスと再会した。
2年ほどの前のBasser誌でも記事を書いたので覚えている方もいると思うが、
トーマスはフリッピングを発明したパイオニアとして知られるアングラーだ。
1937年生まれのトーマスは、来年の2月で67歳になる。
2年振りということで身体をこわしたりしていないだろうか……と少々心配していたのだが、
電話口のトーマスは「おぉ、あのときのジャパニーズ・ボーイか!」と元気そのものだった。
とはいえ、話によると今年に入って腰を痛めてしまい、
一時は上半身が麻痺するほどだったというから、病状はかなりひどかったようだ。
「もう年寄りだからな。さすがに死ぬかと思ったんだが……。
今でも2本の指の先端に痺れが残っていて、あまり感覚がないんだよ」。
そう話すトーマスだが、実は今でもトーナメントから引退してはいない。
「さすがに1人では辛いから、今はチームメイトと一緒にトーナメントに出ているんだ。
体調が悪かったんで5試合ほどパスしたが、それでも25戦には出場して4回優勝したよ」。
驚いている私の表情を察したのだろう、トーマスは笑いながらこうつけ加えた。
「俺は今でもな、若いヤツらの尻を引っ叩いて歩いてるんだよ。
俺みたいなジジイに負けりゃ、連中も悔しくて頑張るだろうよ」。
ご存じない方のために説明すると、トーマスがフリッピングを発明したのは、
1956年にクリア・レイクである2人のアングラーを見かけたことがきっかけだった。
この2人は、竹製のノベザオを使ってグラスの奥にベイトを落とす奇妙な釣りをしていた。
当時、この釣り方はチュール・ディッピングと呼ばれていたという。
ちなみに、チュールとはアシに似たグラスのことで、ディッピングとは「浸ける」という意味だ。
若きトーマスはこの釣りを修得してビッグフィッシュを釣りまくり、
さらにトーナメントでもたびたび優勝を飾った。
しかし、リールがついていないタックルでの釣りは不公平だという意見があり、
さらにトーナメント団体からルール改正の相談が持ちかけられたことでトーマスは試行錯誤した。
その結果、リールつきのタックルでラインを引き出す現在のスタイルを考案、
フェンウィック社と共同で7ft6inのロッドを開発したのだ。
このテクニックは、当時フェンウィック社で開発を担当していた
ウェイン・カミングスの提案で“フリッピング”と名付けられ、そのロッドにもその名が使われた。
これこそがフリッピンスティックである。
指でラインを引き出す特殊なテクニックのため、
リールとストリッピングガイド(リールに一番近いガイド)の間隔が長く、
なにより簡単には曲がらないほどヘビーなアクションは当時としては異色の存在だったのだ。
トーマスはその後、1975年にアーカンソー州ブルショール・レイクで開催された
B.A.S.S.インビテーショナルで優勝、同年のバスマスター・クラシックにも出場している。
彼には5人の子供がいたため全米レベルのトーナメントには数えるほどしか出場していないが、
このフリッピングは彼の弟子ともいえるアングラーによって全米に広まった。
そのアングラーこそ“西海岸でもっとも成功したアングラー”と呼ばれるデイブ・グリービーであり、
カリフォルニア出身で当時“ヤング・ライオン”と呼ばれたゲーリー・クラインだ。
トーマスは生涯、バックシートのアングラーに釣り負けた経験が2回しかないという。
実はこの2回の相手こそが、グリービーとクラインだったそうだ。
“フリッパー”と称されるデニー・ブラウワーやトム・ビッフルを挙げるまでもなく、
昨今のトーナメントにおいて、フリッピングがもたらした栄冠は数知れない。
興味深いのは、このテクニックがアメリカにおけるバスの本場であり、
なおかつもっともその効果を発揮する南部のフィールドではなく、
バスの後進地区ともよべるカリフォルニアで誕生したという事実だ。
それだけに、トーマスの名は多くのアングラーたちの心に刻まれているのである。
現在、トーマスは仕事をリタイアし、釣り三昧の日々をおくっている。
Basser誌には書かなかったのだが、2年前の取材の際、彼はこんな言葉を聞かせてくれた。
「若いころはいろいろ無茶したもんだよ。煙草も酒も、女もね。今では煙草も酒もやらないし、
この年じゃアソコも使いもんにならない(爆笑)。でも釣りだけは……死ぬまで続けるつもりだよ」。
B.A.S.S.の最大記録、14Lb9ozをもたらしたカリフォルニア・デルタ。
ここで再びトーマスと釣りができる日を、私は楽しみにしている。