バスフィッシングと出会って20年あまり。
すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、
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TEXT by Jun Sugawara

BEAT 18  魚道が霞ヶ浦に与えるもの(2003/10/28)

現在発売中の雑誌“Basser”で金澤一嘉さんがレポートを書いていることもあり、
W.B.S.を中心として常陸川水門に魚道を設置するための活動が起こっていることはご存じだろう。
ことの発端は、霞ヶ浦や北浦における漁業の不振である。
国土交通省関東地方整備局霞ヶ浦河川事務所が開催している霞ヶ浦意見交換会では、
漁業者から常陸川水門の開放を求める意見が出された。
常陸川水門は昭和34年(1959年)4月に着工され、昭和38年(1963年)に完成。
つまり、今から40年ほど前に作られたものである。
この水門が作られた目的は洪水などの災害と塩害の防止、いわゆる治水と利水だ。
事実、この水門が設置される前の沿岸地区は、たびたび洪水や塩害に見舞われてきた。
このため地域住民からの水門設置を求める声は大きく、
茨城県議会からは水門設置の繰り上げ施行を求める意見書が採択されたという経緯もあったのだ。
たびたび起こっていた塩害や洪水がほとんどなくなったということから、
水門設置は治水や利水という目的を達したといえるだろう。
しかし、これまで汽水域だった場所が淡水化されたことは、漁業に大きな打撃を与えた。
水門の設置以降、さまざまな水産物にその影響を見ることができる。
昭和47年(1972年)には常陸川水門の閉鎖によってシジミが大量死。
この翌年にも1万数千トンにおよぶシジミが斃死したことに加え、
アオコの大量発生によって水質が悪化、霞ヶ浦の養殖コイが大量死する事態となった。
漁協はデモなどを行なって水門の開放を訴えたものの、
塩害の発生もあって、この年に水門の完全閉鎖が決定してしまったのである。
水門の開放を訴えた漁業者とは昭和50年(1975年)に漁業補償が妥結したが、
すでにこの年、稲敷地区でのシジミ漁獲は皆無となってしまった。
ちなみに、霞ヶ浦でシジミの漁獲が完全になくなったのは、昭和57年(1982年)、
北浦でヤマトシジミの漁獲がなくなったのは平成3年(1991年)のことだ。
もちろん、霞ヶ浦の漁獲減少の要因は常陸川水門の影響だけではない。
生活排水の流入、浚渫や護岸の影響、バスやアメリカナマズによる食害も要因のひとつだろう。
仮に魚道が設置されたからといって、霞ヶ浦のすべての問題が解決するわけではないとは思う。
しかし、もしも常陸川水門に魚道が設置されれば、淡水と海水を行き来する生物の増加が期待できる。
海と川を行き来する魚といえば、遡河回遊魚と呼ばれるサケやマス類、降河回遊魚と呼ばれるウナギ、
そして両側回遊魚と呼ばれるアユやヨシノボリなどが代表的だ。
淡水域で生まれ、海へと下って再び淡水域に戻ってくる両側回遊型のエビ類も増加が期待できる。
元来汽水域を好むシラウオなども、増える可能性が高い。
このような背景もあり、漁業者たちは少しでも状況が好転すればという思いから、
常陸川水門に魚道を設置してほしいと願っているのである。
そんな状況を私たちバスアングラーに教えてくれたのが、筑波大学の升秀夫先生だ。
私自身、霞ヶ浦の漁業者の方とお話をしたことがあるが、
若者たちの魚食離れや漁獲の減少によって、事態は深刻を極めているというのが実情だ。
「このままいけば、霞ヶ浦の漁業は消滅するでしょうね」と話していた方はバス釣りにも理解があり、
「マナーさえ守ってもらえば歓迎しますよ」と話してくれた。
事実、W.B.S.のゴミ拾いや看板設置による啓蒙活動は、徐々にではあるが漁業者にも評価されている。
マグロのような海産物と比較すると、内水面の漁業の実態はマスコミでもあまり報じられない。
さらに霞ヶ浦水系の漁業のことなど、一般の人々はほとんど関心をもたないのが現実なのだ。
また、霞ヶ浦水系の水は飲料水や工業用水として利用されており、
塩害の問題もあって、魚道の設置にはさまざまな課題が残されている。
霞ヶ浦意見交換会でも参加者から「霞ヶ浦をかつてのような汽水域に」という意見が出されたが、
「利水という点から現実的ではない」と行政側から返答があった。
現実的に考えれば、魚道設置までの道のりは相当に厳しい。
しかし、塩害対策ということでは、除塩ポンプや除塩サイフォンといった技術もあるらしいし、
現在のテクノロジーをもってすれば利水と魚道を両立する手立てが見つかる可能性だってある。
なにより、一般の人たちが無関心であるからこそ、
霞ヶ浦の恩恵を受けている私たちバスアングラーは、この問題に関心をもつべきだと思うのだ。
現在、W.B.S.では魚道設置推進基金を設立し、全国のアングラーからの協力を呼びかけている。
少しでもこの問題に関心をもったなら、ぜひともご協力を……。

●常陸川水門の魚道設置に関する活動の詳細は、W.B.S.の公式ウェブサイト“W.B.S. on LINE”にて。