バスフィッシングと出会って20年あまり。 すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、 これまでに出会ったさまざまなことを つれづれ〜っと書いていきます。 ご意見、ご感想、叱咤激励はこちらまでよろしくね。 TEXT by Jun Sugawara
BEAT 15 モリ・フミトシというスゴいヒト(2003/7/4) 雑誌Basserの読者なら、水中カメラマンの森文俊さんという名前を見たことがあるだろう。 アクアリウムに興味がある方なら、ディスカスなどペットフィッシュのオーソリティーとして、 森さんの名を知っているかもしれない。 また、3月15日にはW.B.S.が森さんを招いて「+F」を開催したので、 実際に森さんのお話を聞いたというバスアングラーもいるはずだ。 バスアングラーにとって森さんといえばBasserでの執筆をはじめとした活動が知られているだけに、 “バス擁護派の水中カメラマン”というイメージをもっている方も多いのではないだろうか。 ところが、「害魚、益魚という観点でバスを見たことはない」と公言している森さんは、 バスという魚を誰よりもニュートラルな視点で見ている人物である。 バスに限らず、日本のさまざまな魚類を主体に撮影してきたこともあり、 森さんはもともとバスの「悪事」を撮影するために琵琶湖に潜る決心をしたという。 しかし、そこで実際に見たバスたちは巷で騒がれるようなギャングではなく、 実に興味深い生態をもった、愛すべき魚たちだったという。 なにより私が驚いたのは、新聞やテレビで「在来魚を食い尽くす」と報道されているにもかかわらず、 長年にわたって全国各地の水中でバスを見てきた森さんが、水中でバスの補食シーンを見たことがないことだ。 「補食に失敗した場面は何度も見ているけどね」と語る森さんにとって、 バスはフィッシュイーターとしては比較的補食が下手な魚類、ということになってしまうようだ。 大学の水産学部を卒業した森さんは当然のことながら魚類学に精通しているのだが、 なによりもスゴいのは、そのフィールドワークである。 国内のフィールドはもちろん、ヨーロッパや東南アジア、 南米アマゾンやアフリカ、さらにはガラパゴス諸島に至るまで、世界の魚たちを自分の目で見てきたのだ。 なにより興味深かったのは、ヨーロッパでも先進国として知られるドイツでの話である。 工業国として知られるドイツは、日本と同様に多くの自然環境を開発によって失っている。 しかし、一歩町中を抜けた住宅地の小川ではトゲウオの仲間を見ることができるというのだ。 ご存じの方も多いと思うが、イトヨやトミヨなど、トゲウオの仲間は日本にも生息している。 ところが、生息環境の悪化によって、その多くの種が絶滅の危機に瀕しているのが現状だ。 京都市と兵庫県柏原市に生息していたとされるトミヨの亜種、ミナミトミヨがすでに絶滅していることは、 日本産淡水魚ファンなら誰もが知っていることだろう。 先進国ドイツの住宅地に水質悪化に弱いトゲウオが泳いでいることに驚き、 地元の人に話を聞いたところ、こんな答えが返ってきたという。 「この小川は子供たちが生まれて最初に触れる自然なんだ。だから大切にしなくてはいけない」。 事実、その小川には裸足で遊ぶ子供たちの姿があったという。 私は現在、森さんが設立したピーシーズの雑誌、アクア・ウェーブのお手伝いをさせてもらっている。 そのせいもあって森さんとお話する機会は非常に多いのだが、 ことバス問題に関して、森さんの言葉には考えさせられることが多い。 「生物多様性という視点から、バスという帰化生物を排除したいという考えは理解できる。ただし、日 本の内水面の環境悪化を帰化生物だけのせいにするのは間違いだとも思う。正直なところ、今の日本の 内水面というのは病んでいる。日本全国、どこを見ても在来淡水魚が増えている水域がないというのが 現状だからね。バスを悪者にしているだけの人を見てると、気楽でいいな〜、と思うよ」。 誤解のないように付け加えると、森さんはバスやバスフィッシングを擁護しているわけではない。 なんとなく分かりやすい「悪者」を見つけ、それを叩けばいいという風潮に警鐘を鳴らしているのだ。 ちなみに、先月発売されたアクア・ウェーブ No.28の「日本の川も面白い」という森さんの連載では、 この雑誌では珍しく(なにせアクアリウムの本だしね)バス問題について書かれている。 生態系という言葉を安易に使うことの危険性、そして漁業者や行政の問題にも触れているので、 バスアングラーのみなさんにも、ぜひ御一読いただきたい。 ちなみに、森さんの恐ろしいところは、魚類学者も顔負けの知識量である。 「さて、今日のトリビアです。世界で最初に記載されたシクリッドはなんでしょう?」 などと突然言われることも多く、その“魚好き度”は驚きを通り越し、いい意味で変態の領域だとさえ思う。 なお、森さんは近い将来、日本の帰化生物に関する本を出版する予定だという。 この本ではバスやブルーギルに留まらず、カムルチーやティラピアなど、 日本という異国の地で懸命に生きている帰化生物たちの「本当の姿」が紹介されるはずだ。 こちらも、乞うご期待である。