バスフィッシングと出会って20年あまり。 すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、 これまでに出会ったさまざまなことを つれづれ〜っと書いていきます。 ご意見、ご感想、叱咤激励はこちらまでよろしくね。 TEXT by Jun Sugawara
BEAT 14 「ブラックバスがいじめられるホントの理由」(2003/6/27) ネットでバスフィッシングの情報を集めているアングラーで、 なおかつ昨今のバス問題について関心があれば「ゼゼラノート」というサイトはご存じのことだろう。 かくいう私自身もしっかりブックマークをつけており、ほぼ毎日のように閲覧している。 ご存じない方のためにチョロッと解説すると、「ゼゼラノート」とは、ある情報の集積ページだ。 ここで集積されている情報は、外来魚のキャッチ&リリース禁止を盛り込んだ、 滋賀県の「琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例」いわゆる「リリ禁条例」に関するもの。 リリース禁止条例に関する現在進行形のニュースはもちろん、 条例の制定にいたるまでの経緯やこれに関連する資料などが集められているのだ。 このサイトの主宰者であるゼゼラさんこと青柳純さんが、 このたび「ブラックバスがいじめられるホントの理由」という本を出版した。 この本は、もともと滋賀県立大学環境科学部の学生であった青柳さんが、 卒業論文として執筆した「外来魚問題の構造と対策の検討」を元にまとめたものだという。 「環境学的視点から外来魚問題解決の糸口を探る」という副題にもあるとおり、 「そもそも、外来魚問題とはなんぞや」という点が明解に書かれている。 実は、我が国における外来魚問題というのは、その論点自体が明解になっていないケースが多い。 たとえば、一般のメディアでよく使われる「生態系」や「生物多様性」という視点での議論。 外来魚が在来の生態系になんらかの影響を与える……これは紛れもない事実であり、 この視点からはバスやブルーギルといった外国からの移入生物は「排除」以外に選択肢など存在しない。 ただし、この議論に関する問題点は、外国から移入された生物に限らない。 ハス、ワタカ、ゲンゴロウブナ、ホンモロコ、ビワヒガイ……。 琵琶湖の固有種とされる多くの魚類は、すでに全国各地へと拡散し、定着している。 琵琶湖の魚に限らず、関東地方で魚食性の強いナマズが確認されるようになったのは江戸時代以降の話だし、 関東地方のシナイモツゴは、移殖されたモツゴとの競合に敗れて絶滅している。 さらに、全国各地への湖産アユやワカサギなどの移殖は現在進行形なのだ。 つまり、「生態系」や「生物多様性」を考える場合、 バスやブルーギルなど外国から移入された生物だけを特別視すると、その本質を見失ってしまうのだ。 また、私たち日本人は、これまでこういった移入種を利用してきたという背景もある。 「生態系」や「生物多様性」を突き詰めると、「外来種はすべて排除」という結論に達してしまう。 ところが、現実的には私たちが普段食べている米を含めた食料も、そのルーツは外国にあることが多い。 そうなると「外来種はすべて排除」という考え方はあまりに現実離れしているし、 現実問題として、バスやブルーギルだけを国内から完全に駆除するのは不可能だ。 少々脱線してしまったが、この本はこういった移殖種に関する問題の論点を整理し、 極めて現実的な解決法を導くための可能性を示唆している。 青柳さんはこの本のあとがきの中でも、こう記している。 『本書では、「外来魚は有効活用するべきだ」とか「外来魚は完全駆除すべきだ」といったような、 明確な結論を示すことはしませんでした。それは、外来魚よって何が起きているのかを適確に把握した うえで、何のためにどんな対策を講じようとしているのかを明確にした取り組みを行なうことこそが大 切だと考えるからです。その取り組みは、結論において、外来魚を有効に活用するものになるかもしれ ませんし、外来魚を駆除するものになるかもしれません。重要なのは、その結論が、建設的な議論が行 なわれた上での合理性のあるものであるかということなのです。ごく当たり前のことですが、残念なが ら外来魚問題ではそれがまったく不充分なのが実情です』。 建設的な議論を行なうためにはどんな調査や現状把握が必要なのか、 合理性のある結論はいかにして導き出すものなのか……この本は、そんなことを考えさせてくれる。 「生態系を守るため」という、「なんとなく」分かりやすい理由によって駆除されている、 琵琶湖のバスやブルーギル。 しかし、現実に目を向ければ、この駆除の犠牲になっている在来種は確実に存在するし、 在来種の生息環境向上を目的とした対策は皆無に等しいのだ。 『やがてメダカもブラックバスもいなくなる。』というこの本の副題こそ、 日本の淡水魚が抱える根本的な問題を象徴しているように思えてならない。 バス釣りをする人々、日本の淡水魚が好きな人々、そして内水面で漁業を営む人々。 そんなすべての人々に、ぜひ読んでいただきたい一冊である。