バスフィッシングと出会って20年あまり。
すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、
これまでに出会ったさまざまなことを
つれづれ〜っと書いていきます。
ご意見、ご感想、叱咤激励はこちらまでよろしくね。


TEXT by Jun Sugawara

BEAT 12  「もうちょっとで死ぬところだったな」(2003/5/14)

釣りは、危険な行為である。

おそらく、バスフィッシングをしている方なら自分が落水した、
あるいは、知りあいが落水した、なんてハナシを聞いたことがあるだろう。

ちなみに、当サイトでもお馴染みの安井研介さんは、私の目の前で落水寸前に陥ったことがある。
場所は亀山ダム、少なくなったとはいえ、当時はまだまだ立ち木が多く残っていた。
立ち木に絡んだルアーを外そうとした安井さんは、
別の立ち木を掴んだのだが……これが突然ボキッと折れたのである。
安井さんはなんとか体勢を立て直し、無事生還。

当時ミュージシャンを目指していた彼の長髪がズブ濡れとなってしまったが、
これが笑い話で済んだのは“運”がよかったからに過ぎない。
ライフジャケットこそ着ていたものの、この日は雪が降るほどの寒さだったのだ。
当時Basser編集部でバイトをしていた安井さんだが、
このときに命拾いをしたお陰で、後にJBマスターズで優勝を飾ることができたのである。

私自身、バスフィッシングでヒヤリとした経験は数多くあるのだが、
もっとも印象的……というか、強烈だったのは、2001年のB.A.S.S.バスマスターズクラシックである。
ルイジアナ州ルイジアナ・デルタで開催されたこの大会で、
私はトーナメント2日めにゲーリー・ヤマモトと同船することになった。

ルイジアナ・デルタは大河ミシシッピの河口部分にあたり、
その名のとおりのデルタ地帯(三角州)だ。
ミシシッピ・リバーを中心に湿地帯が放射状に広がっており、その広さは関東平野に匹敵する。
まるで迷路のように入り組んだ川やそれを結ぶ水路が特徴で、
ハッキリ言ってワケがわからなくなるほどの規模。

なにしろ、広すぎるため湖沼図がなく、アングラーたちはGPSと衛星写真を利用している。
公式プラクティスでは桐山孝太郎さんと同船したが、
GPSの不具合によって危うく遭難しそうになったほどである。

ともあれ、トーナメント2日めがスタート。
ゲーリーに限ったことではないが、トーナメント中にヒトが変わるアングラーは少なくない。
後方から別のアングラーがついてきていたこともあり、
負けず嫌いのゲーリーは、とにかく全開バリバリで自分のスポットを目指していた。
そして、私たちの前方に跳ね上げ式の小さな橋が現れたと思いきや、ゲーリーが声を上げた。

「●×▲※(はしたない言葉なので伏せ字)!!!」。

前方に目をやると、橋の下の水面のすぐ上に、水平に張ったワイヤらしきものが見えるではないか。
ゲーリーはスロットを戻すやいなや、私に「Hold on (掴まれ)!」と言う。
ご存じの方は多いと思うが、バスボートのナビゲーションシートには掴まる場所などあまりない。
次の瞬間、水面付近にあったワイヤに船外機のロワーユニットが引っ掛かり、
コントロールを失って船首が大きく左に振られたボートは橋桁に激突。
沈没こそ免れたものの、私は腰と膝を強打、
後方から大量に入ってきた水からカメラバッグを守るのが精一杯という状態だった。

なぜ、そんな所にワイヤがあったのか……その理由は、跳ね上げ式の橋にあった。
この橋は下がっている状態(橋の上をクルマが通行する場合)のとき、
航行している者に注意を促すための表示板がついたワイヤが水中から上がってくるようになっている。
遠目からは橋が上がっているように見えたので、ゲーリーは橋の真下を通ろうと思ったのだが、
実際には橋は稼動している最中だったのである。

安全対策として、橋が稼動している最中は回転灯がつくようになってはいるのだが、
このときは夜明け直後の逆光だったこともあり、回転灯がよく見えなかったのだ。
もっとも、ゲーリーはスロットルを戻してチルトアップさせていたため、
船外機がまともに引っ掛かることはなかったのだが……。
一歩間違えば、私はコンソールに叩き付けられるとともに、船外に放り出されていたことだろう。

もちろん、ライフジャケットは着用していた。
しかし、この周辺はアリゲーターがウジャウジャ生息しているのである。
私が呆然としていると、ゲーリーはすぐに激突した箇所と船外機をチェック。
大した異常がないことを確認すると「もうちょっとで死ぬところだったな」と大笑いしながら、
再び全開バリバリでスポットへと向かった。

結果的に、この事故は腰にアザを作ったくらいで済んだのだが、
出発前に「B.A.S.S.は事故などの責任を負わない」という念書にサインをしたことを思い出した。
帰着後、一緒に取材をしていた雨貝健太郎さんや小笠原康高さんに大笑いされたのはいうまでもない。

繰り返すが、釣りは、危険な行為である。
陸っぱりであれボートであれ、くれぐれも事故のないよう気をつけていただきたい

ボートのキズがわかるだろうか。激突した部分は、塗装がはがれて一部ではグラスファイバーが剥き出しの状態になっていた……。つうか、ゲーリー笑ってるし(ボソ)