バスフィッシングと出会って20年あまり。 すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、 これまでに出会ったさまざまなことを つれづれ〜っと書いていきます。 ご意見、ご感想、叱咤激励はこちらまでよろしくね。 TEXT by Jun Sugawara
BEAT 11 シビれる駆け引き(2003/5/13) バスフィッシングの世界では、トーナメントに対して賛否両論があるようだ。 「釣りというのは一人で静かに楽しむもの」と考えている人にとって、 トーナメントは鬱陶しい存在ともいえるだろう。 私も、かつて友人と亀山ダムに釣行した際、トーナメントが開催されていてガッカリしたことがある。 トーナメントによってフィッシングプレッシャーが高くなるので釣れなくなる、というワケだ。 ただし本当に「釣れなかったのがトーナメントのせい」かどうかは微妙で、 私の場合、釣れなかったのをトーナメントにせいにしていたフシもあったりする。 以前、Basser誌の取材で河辺裕和さんと河口湖で同船したときのことだ。 この日、河口湖ではJB河口湖マスターズが開催されており、 200名を超えるアングラーが湖上に浮かんでいた。 「トーナメントの邪魔はしたくないから……」という河辺さんは、 アングラーがいないエリアだけを回ることにした。 結果的に、河辺さんは短時間にもかかわらず、見事にバスを数尾キャッチ。 「これが、トーナメントに出てると釣れなかったりするんだよ」と笑っていたが、 さすがプロ! と思わずにいられない取材だった。 ともあれ、河口湖のような湖で大きなトーナメントが開催されていると、 湖上がかなり狭く感じるのも事実だ。 レンタルボートが出払っていたり、フィッシングプレッシャーが高くなる可能性は高く、 トーナメントを敬遠する人々の気持ちは否定できないだろう。 いっぽう、他人との勝負事が好きなアングラーにとって、 トーナメントは説明がいらないほど楽しい存在であることもまた事実だ。 また、トーナメントには「観る楽しさ」もあり、JBワールド戦などは多くのギャラリーで賑わう。 雑誌やテレビで活躍するプロたちを見たり釣り方を知るのも楽しいが、 アングラー同士の“駆け引き”という目に見えない要素にも、実は魅力が隠されている。 なかでも印象深いのが、2000年にレイク・ミードで開催されたJBワールド戦だ。 このトーナメントは、JB15周年の記念大会ということでアメリカで開催され、 アーロン・マーテンスやゲーリー・ヤマモトなど、多くのアメリカのトッププロたちも参戦していた。 日本人アングラーはボーターとノンボーターに分かれていたのだが、 ノンボーターとしてジョン・マーレイのパートナーを務めたのが宮本英彦さんだった。 プラクティスの前、マーレイは宮本さんに「キャロライナリグを用意するように」と告げたという。 しかし、プラクティスではキャロライナリグをキャストするような状況はほとんどなかったそうだ。 そして、いよいよトーナメントがスタート。 比較的早いフライトだったマーレイは、スタート地点の湾を出たスポットでボートをストップさせた。 マーレイは気のないキャストを繰り返しながら、スタート地点をチラチラと見ていたという。 すると、全員がスタートを終えたのを確認したマーレイは、スタート地点の目の前へと引き返した。 そのスポットには数本のログが沈んでおり、 アフタースポーンのバスの付き場であるとともに、 キャロライナリグが威力を発揮する絶好のスポットだったという。 しかも、そのログは水深10m以上のディープにあったため、 まさにシークレットといえるスポットだったのだ。 マーレイはU.S. OPEN2度の優勝を含め、 レイク・ミードで開催されたトーナメントを何度も制している。 多くのアングラーにマークされているマーレイが、もしスタート直後にこのスポットに入っていたら、 彼らにログの存在を教えてしまうことになるわけだ。 「その場所には、プラでも入ってないんだよ。久しぶりにゾクゾクしたよ」。 結果的にマーレイは16位でトーナメントを終え賞金を獲得したが、 宮本さんはこの結果以前に、マーレイの「駆け引き」に驚かされたと語った。 「結局、トーナメントではプラで行った場所に一度も行ってないんだよ(笑)。 テクニックの部分では差は感じなかったけど、すごく勉強になったね」。 こう語った宮本さんは、今シーズンのW.B.S.プロトーナメント第3戦で、 桜川をメインとした戦略で優勝を飾った。 ほとんどプラクティスができなかった宮本さんが桜川で勝負した理由は、なんだったのだろうか。 単純に桜川が好きだったから? 桜川はW.B.S.では比較的新しく認められたエリアなので敬遠されると読んだから? 同時に開催されていたJBではオフリミットのためプレッシャーが低いと予想したから? スポーニングシーズンの流入河川に自信があったから? ……そんなことに思いを巡らせてみると、 「観る側」にとってのトーナメントはさらに楽しくなるものだ。