バスフィッシングと出会って20年あまり。
すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、
これまでに出会ったさまざまなことを
つれづれ〜っと書いていきます。
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TEXT by Jun Sugawara

BEAT 1  プロアングラーというツラいお仕事(2003/4/15)

先日、スキート・リースのワイフ、キマリーからメールが届いた。
送られてきたメールには1枚のファイルが添付されており、
この写真には愛娘のリマリーちゃんを抱く笑顔のリースが写っていた。
写真だけを見れば、微笑ましい1枚のスナップ。
しかし、リースがトーナメントアングラーであるだけに、
私はこの写真を見て少々複雑な気持ちになってしまった。
今年のバスマスターツアーとFLW TOURのスケジュールは非常にタイトだ。
この両方にエントリーしているリースは、
シーズン開幕とともに自宅のあるカリフォルニアにはなかなか帰れない生活が続いていたのだ。
ウエイインステージの華やかな場面が伝えられる裏側で、
アングラーたちは釣りと移動の繰り返しという、実に地味な日常を送っている。
夜明け前から湖に出て、モーテルでシャワーを浴びて食事もそこそこに床につく。
いい成績を収めることができなければ、
スポットライトを浴びることなく次の会場へと車を走らせるしかない。
中には家族や恋人とともにトレイルを転戦するアングラーもいるが、
経済的な理由や子供の学校などでそれが不可能な者たちも多い。
リースもかつてはキマリーさんとともにトレイルを回っていたが、
今シーズンはお産を間近に控えていたこともあり、
カリフォルニアに留まるしかなかったのだ。
そして、トーナメントシーズンの開幕。
リースは、バスマスター初戦優勝というこれ以上ないスタートを切った。
なにしろ、クラブ好きで陽気なリース。
ウエイインステージで嬉しさのあまり号泣したという彼を意外に思った者も多かったようだが、
娘の誕生を間近に控えたリースにとって、この優勝は格別なものだったのだろう。
そして、1月29日、7Lb11ozというグッドサイズの赤ちゃんが無事誕生。
わずか4日間という短いオフにカリフォルニアへと戻ったリースは、
初めて授かった娘と感動の対面を果たしたそうだ。
しかし、娘の顔を見たのもつかの間、すぐさま彼はバスマスターツアー第3戦の会場、
ジョージア州レイク・セミノールへと移動。
この写真は、実に2ヶ月ぶりとなる娘との再会のワンシーンでもあったのだ。
家族を大切にするアメリカ人としては、信じられないような境遇……。
しかし、ワイフのキマリーは、自分自身がそんな生活を経験している。
キマリーの父は、トム・コスターというミュージシャンだ。
キーボーディスト、そしてコンポーザーとしても著名なキマリーの父は、
かつて、あのサンタナにも在籍していた。
現在もヴァイタルインフォメーションというグループに在籍し、
全米……いや、世界各地をツアーで回る生活を送っているのだ。
おそらく、キマリーも幼少のころはそんな父と接する機会が少なかったに違いない。
以前、キマリーが彼女の父について、こんな話を聞かせてくれた。
「子供のころは、週末毎にお父さんと遊んでいる友人がうらやましかった。
けど、いつからかテレビや雑誌で見る父の姿が誇らしく思えるようになったの」。
おそらく、キマリーにはテレビや雑誌で活躍するリースと父の姿が重なって見えるのだろう。
私も同じ娘をもつ父親として、 新米パパのリースにはさらなる活躍を期待したい。
それにしても、プロアングラーは本当にツラい仕事だ。
「好きな釣りして生活できるなんていいね」などと言う人もいるが、
彼らは雨が降ろうが雪が降ろうが、はたまた大波が立っていようと湖に出なくてはならない。
しかも、極めて不確実性の高い賞金という名のサラリーを競い合っているのだ。
家を空ける時間も多く、これが理由で家庭が崩壊したアングラーもいるし、
日本人アングラーの宮崎友輔は、日本で誕生した息子の顔を見ぬままトーナメントに出場していた。
プロアングラーは華やかに見える反面、実際は割に合わない商売でもある。
私は、そんな世界で頑張っているすべてのアングラーたちに心から敬意を表したい。