行き過ぎ「外来種バッシング」 コスモスやイネは?生物学者の提言

「人権」と並び、声の大きい人々の“参入分野”となって久しいのが、「環境」である。中でもホットなのは、「外来種」バッシング。固有の生態系を崩す。だから駆除せよ、と叫ぶが、生態系(エコシステム)ってそんなに単純なものなのか。


 休日、東京・上野の不忍池にいた親子連れ。池のほとりに甲羅を背にひっくり返ってバタバタするミシシッピアカミミガメが……。父が助けてあげようとすると、小学生と見られる息子が一言。
「特定外来種だから、いいんじゃない?」
 おそらくこの少年、全国各地の池をかい掘りし、外来生物の駆除を行うヒット番組「池の水ぜんぶ抜く大作戦」(テレビ東京)のファンであろう。
「昨今の『外来種バッシング』には、大いに疑問を感じています」
 と述べるのは、早稲田大学名誉教授で生物学者の池田清彦氏である。
「分別のない子どもに『外来種=悪』みたいな単純な思想を植え付けていいのか。例えば、ブラックバスは悪の権化のように扱われる特定外来種ですが、一方で、同じく特定外来種として嫌われるアメリカザリガニの個体数増加を抑える側面もある。かつて金沢でブラックバスを駆除したら、アメリカザリガニが増え、在来種のゲンゴロウが減ってしまったことがありました」
 生態系とは人間が思うより、ずっと複雑で連関し合っているもの。決して「善悪」二元論で語られるようなものではないのである。
「そもそも『外来種』という定義自体が、非常に恣意的に用いられていますよね。一般に、明治以降に日本に入ってきた生物を指しますが、その意味で言えば、コスモスだって外来種。繁殖力が強く、生態系への影響がないとは言えませんが、“駆除せよ!”とはなりません。中禅寺湖はマス釣りで有名ですが、ブラックバスが増え、商売に影響が出るので駆除された。その時に用いられた論理も“外来種だから”。でもマスだって外来種なのですが……」
 コスモスは綺麗、マスは美味だから声が上がらないのだろうか。これでは「エコ」でなく「エゴ」である。
人間の思い上がり
 池田氏が続ける。
「各々の生態系における、個別で複雑な事情について知らずに、大人が『外来種=悪』と決めつける姿勢を見せれば、子どもは“特定外来種ならば殺してもいい”と誤解するでしょう。これはもう、命の選別ですよ。何であれ、生物の命は同じように大切。とりわけ子どもに、“殺していい生物とダメな生物がいる”という論理を教えるのは問題です」
 そもそも、池の水を抜くくらいで、生態系がコントロールできると考えること自体が、人間の思い上がりではないのか。
「特に哺乳類と違い、非常に多くの卵を産む魚や虫は、少し獲ったからといって、簡単に減るものではありません。池の水を全部抜いても、少しでも残っていれば、2〜3年も経てば元の木阿弥。動植物はモノではないので、ひとつ獲ればひとつ減る、というような単純なものではないのです」
 そして、
「原理主義者は、在来で固有の生態系というものがあり、それが続くことが理想だと思いがちですが、そんなことはありえません。そもそもイネだって、2500年前に来た外来種ですから。生態系はどんどん変わっていくもの。それを理解し、自然に敬意を持った上で、あまりに害が甚大なものについては、ほどほどに対策する、と言うしかない」
「外来種発見!」と、嬉々として叫ぶ子供たち。その目は血走っていないか。
「週刊新潮」2020年7月9日号 掲載
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